自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

サルトリイバラと生きものたち(4)

2016-05-31 | 生物

サルトリイバラの葉をじっくり見ているうちに目に入ったのが,一粒のごく小さな卵。直径はせいぜい1mmといったところ。ルーペで確認すると,どうやらチョウの卵のようです。ただ,これまでに見たことがないものだったので,調べてみました。しかし,現時点では同定できていません。

卵の様子は次のようでした。

  • 葉の表面に産み付けられている。
  • 卵は本来とちがって,斜めにくっ付いている。
  • 上部がアズキ色になっている。


拡大して撮ったのが下写真です。縦縞になった突起の帯がとても特徴的です。 


はじめは全体が白っぽかったでしょう。上部の色は,孵化に向けて順調に変化を続けていることを物語っています。この卵からどんな幼虫が生まれるか,確かめようと思った矢先のこと。わたしの不注意で別の葉が当たって卵が落下! こんなに小さな卵を探し出すのは不可能です。とても惜しい気持ちがしましたが,諦めるほかありません。

いつか,卵の主を突きとめたいと思います。 

 


ジャコウアゲハ観察記(その352)

2016-05-30 | ジャコウアゲハ

ジャコウアゲハにつていはまったく記事として取り上げていませんが,話題がないわけではありません。それよりも他の話題が多くって,それに触れるゆとりがない実情です。実際,自称“アゲハの庭園”ではどっさり幼虫が育っていて,食草ウマノスズクサが食べ尽されつつあります。


「よくもマア,こんなに競うように食べて!」と呆れ返る程なのです。この分だと,近く,葉がまったくなくなって,幼虫の数が淘汰されるのではないでしょうか。


わたしは,それをそのままにしているだけ。なるがまま,です。止むを得ません。

さて,この程知人にホソバウマノスズクサ(別名アリマウマノスズクサ)をわけていただきました。これは亡き牧野富太郎博士が六甲山で発見した種とか。

これまでも何度かいただいていたのですが,どうも根付きがよくなく,今はかろうじて一本残っているだけなのです。なんとか我が家でも殖やしたいと思っています。(同時にミュージアムでも植栽する予定です)

いただいたウマノスズクサはまことに丈夫な茎を持っていました。これでものに巻き付いて,たくましく上がっていくのです。途中に花が2つ付いていました。普通種とはかなり異なった姿をしているので,びっくり。楽器のチューバを連想する大きな曲線が気に入りました。


中に虫が入っているかなと思いながら,もちろんそうであることを期待しながら,花弁を切り開いてみました。何もいませんでした。それにとくべつな構造でもありません。食虫植物のような際立った特徴を持っているわけではないことがわかります。


このあと,2カ所に植えました。葉が幼虫に食べられると困ります。とくべつにネットで覆って保護することに。さて,そのように育っていくでしょうか。たいせつに見守っていくゾー!

 


モンシロチョウ,孵化失敗

2016-05-29 | 昆虫

どんな生きものについてもいえるのですが,生まれた数の卵,子がことごとく順調に育つわけではありません。生を授けられた瞬間から試練が待ち受けていて,それを乗り越える個体だけが生き残っていきます。

モンシロチョウが産み付ける卵もそうです。無事に孵る卵はまだよい方で,卵から孵らないままいのちを終える個体もまたあります。成虫になって次世代にいのちのバトンを託せる個体は,せいぜい2,3%にすぎないといわれています。生き残る個体はなんともハッピーなこと。自然の厳しさ,掟と括っていえばそうに違いありませんが,実際現実はまことに厳しいものです。そういうことを織り込み済みで,生物それぞれの産卵数が決まってきているのです。

カメラをセットして孵化を待っているにもかかわらず,いのちが絶えた例をご紹介しましょう。

5月23日(月)。なんだか孵化するかもしれないという予感。しかし,かたちがいびつなのがちょっと気になるところ。


5月24日(火)。朝,どうも,空気が抜けた風船のようにしぼんだ感じ。


5月24日(火)。深夜。どんどん縮んでいる感じ。


5月26日(木)。朝。すっかり縮んで,固まってしまった感じ。


トリミングしてみると,「もう,ダメだぁ」といいたくなる絶望的な風景。


結局,孵化失敗です。いのち絶えたいきさつは想像だにつきません。

これが現実の世界なのです。

 

 


ラミーカミキリ,あちこち

2016-05-28 | 昆虫

道路脇の土手にて。そこはカラムシの生い茂る急斜面。もちろんそこは,昆虫たちにとってすてきな棲み処。

葉が裏返ったり,変に反り返ったりしているので,よく見て行くとラミーカミキリがいました。もっと見て行くと,またまた見つかりました。いくつか見つかると,もっともっと見つかりました。


みんなで10匹以上いたのではないでしょうか。

ここにこんなにいるのは,カミキリにとってとても棲みよい環境だからです。カラムシを食べているのです。葉も茎も。カラムシはラミーの大好物。食べたら当然ウンコも出ます。その瞬間!

 
真上から見ると,なんだかパンダが目に浮かんできます。


体長と同じぐらい長い触角。 


近づいてじっと見ると,威厳すら漂っている感じ。さすがカミキリムシのなかまです。 


わたしの姿に気づくと,たいていはそそくさと逃げてゆきました。飛び去った個体もありました。しかし,それと逆に指に乗っかった個体がありました。大した度胸というか,向こう見ずというか。お蔭さまで,腹部も観察できました。翅の色模様とそっくり! まるでパンダのぬいぐるみみたい。 

 
わたしが写真を撮った翌日。そこを通りかかると,カラムシはすっかり刈り払われていました。田植えの準備で,刈られたようです。ラミーカミキリも苦労します。 

 


メスグロヒョウモン,羽化!

2016-05-27 | 昆虫

メスグロヒョウモンが蛹化したのが5月12日(木)のこと。以来,羽化をたのしみに待ち続けました。2週間が経って,ようやく羽化のときを迎えました。なにしろ初めて観察する種です。とくべつな関心を寄せてきただけに,わくわく感が膨らみます。

5月26日(木)。深夜。蛹の表皮を通して,中がよく見えます。翅の紋様からはオスであることがわかります。 それにしても,表皮のツヤの強さには驚いてしまいます。


5月27日(金)。早朝。成虫のからだがぎゅうぎゅうになって,透明袋に詰め込まれている感じがします。いよいよ羽化の瞬間を迎えたようです。 


しかし,じっとそこにいるわけにはいかず,その場を離れました。30分後に見ると,もう誕生していました。見逃したー! 瞬間を見ることは叶いませんでしたが,無事に生まれたのです。よかった,よかった。すでに翅はすっかり拡がっていました。ちょうど,口吻を伸縮させているところでした。 

 
時間が経って手に載せました。後翅の裏模様がよくわかります。すてきなモデルです。

 
床に置くと,翅を拡げました。メスグロヒョウモンのオスならではの紋様が確認できます。

 
野に放つと,元気に舞い上がっていきました。

終齢幼虫との出合いから,その後の変化がよくわかりました。昆虫との付き合いでは,「丁寧に」「一つひとつの機会をたいせつに」という原点がとても大事です。このことを改めて感じる生態観察事例となりました。

幼虫が成虫に大変化を遂げる間にある蛹期間。このチョウの場合は2週間のうちに,組織の組み換え,大改造が行われ,幼虫期とはまったく異なった機能とかたちを整えました。移行期の蛹期間中,体内はドロドロ状態といってもよい,想像を遥かに超えた事態が進行してきたのです。

それを思うと,一層感慨深いものがあります。

いのちの未知を紐解くのはおもしろいものです。 

 


サルトリイバラと生きものたち(3)

2016-05-26 | 生物

サルトリイバラの葉は厚みがあって,ツヤがあって,日が当たるとピカピカしています。その上,パアッと手のひらを広げるような感じで思いっきり開いているので,虫たちには居心地がよいのでしょう。わたしの目にも,そうした印象が際立った葉に思われます。

一枚の葉に,カマキリの幼虫とハエのなかまがとまっていました。ちょっと見ると,カマキリがハエを狙っているようにも見えました。ポーズは立派ですが,獲物にしようとするのはまだ早そう。こういうとき,ハエは気づいているのでしょうか。そんなことを思っているうちに,ハエはパッと飛び去りました。


アマガエルが一匹。なんとものんびりしているみたいで,そこに獲物がやって来たらその瞬間,一口で捕らえるはず。保護色の威力が想像できます。


葉の裏にあったのが抜け殻。カゲロウのものです。よく見ると,脚が6本。翅の名残りも。それに長ーい尾が付いています。カゲロウのなかまは,羽化すると亜成虫になり,もう一度脱皮して成虫になるというめずらしい変態を遂げます。ということは,下写真は明らかに亜成虫の抜け殻ということになります。

 
近くの葉に成虫らしいカゲロウがいました。あやふやなのですが,オビカゲロウのようです。上写真の亜成虫とつながった個体なのかもしれません。もしそうだとすると,ふしぎが生まれます。オビカゲロウの幼虫は,山地にある小さな滝や,しぶきが当たるところに棲むらしいのです。ここはそういうところからかなり離れています。亜成虫になってここまで飛んできたと解釈できます。大した飛翔力です。

 
葉が曲がって2つ折りになっていました。隙間から覗くと,何かいそう。開けてみると,なんとアオズムカデが! 薄い膜に包まれていました。動きはほんのすこし感じられただけ。予想なのですが,メスで卵を産む直前だったのかもしれません。メスは卵を抱いて保護するそうですから,ちょうどそのポーズに見えます。

 
それにしても次々に出合いが続くものです。我ながら,感心しています。 

 


サルトリイバラと生きものたち(2)

2016-05-25 | 生物

ヒメスズメバチ撤去の話をしましょう。

来園者にもしもの被害が及んではたいへん。それで撤去することに。

で,殺虫剤をふりかけるかどうか思案したのですが,結局,ハチが不在のときにそっと茎ごと切り取ることにしました。ハサミを持って行くと,幸いハチはいませんでした。作業はじつに簡単に済みました。ハチには申し訳ない。

手にした巣を見て,改めて発見がありました。かたちは,巣を屋根が守るというしくみがうまくできています。部屋を完全に密閉状態にするのでなく,上部のみを覆うことで省力化しています。


子ども部屋は8。そのうち6つに卵が産み付けられていました。


これらが孵って巣立つまで,成虫が世話をするはずだったのです。営巣場所を選ばなかった(人間との関係を考慮しなかった)結果,あるいはわたしの目にとまった結果,巣と共に卵を失うことになりました。またまた,申し訳ない。


ハチにとっては,人間もまた外敵の一つだと諦めてもらうほかありません。

ヒメスズメバチとの出合いをとおして,このハチ固有の特徴点が見えて来ました。主な点は以下のとおりです。

  • 腹部の先が黒いので,他のスズメバチと容易に区別できる。
  • 比較的おとなしい性質であり,巣に近づいた程度で襲って来ることはない。
  • 巣はとても小さい。
  • 餌として狩る対象はアシナガバチの幼虫・蛹だけである。

出合いをおろそかにせず,ふしぎを解いていくことで新たな発見が生まれます。フレッシュな事実との出合いはいつも刺激的です。

 


サルトリイバラと生きものたち(1)

2016-05-24 | 生物

草木があるところには動物の匂いあり。草木は動物たちの棲み処であり,餌場でもあります。草木を食べる草食性の動物がいれば,そこに棲む動物を食べる動物がいて,さらにそれを襲う動物がいます。要するにいのちのつながりが多様に見えるところなのです。

そんな草木の一つがサルトリイバラ。これを取り上げる理由は,ルリタテハの食草であり,身近な植物でもあるからです。

ルリタテハの幼虫を追っているときに,見かけたのがヒメスズメバチ。巣づくりに勤しんでいる最中でした。お椀状の屋根の下に,巣がぶら下がる格好で付いています。はじめは危険かなあとすこし心配したのですが,注意深く近寄っていけば大丈夫でした。

観察していると,唾液と木屑とでつくった団子をうまく使って巣をつくっていく様子が確認できました。それはそれは,まったく巧みな技に見えました。それを写真で見ていきましょう。

「おっ,団子を抱えている。巣づくりの真っ最中なんだな」

 


「屋根の縁に取り付いたな。ここにくっ付けるつもりなのかな」

 
「作業にかかったぞ。やっぱりここと決めたんだ」


「どんどん付けていくぞ」


「うまいもんだなあ」 


「終わったー! 見事なものだ」。くっ付け始めてから,たったの2分! 

 
「こちらに気づいているのかなあ」。なんだか,警戒しているようにも見えます。

 
巣特有の縞模様を見ると,同じ色の箇所は同じときに付けられた材料だとわかります。合点できるのではないでしょうか。

スズメバチの巣づくりを見るたびに思うのは,巣作りの観察から西洋紙の発明につながったという有名な話。今から300年前のこと。1719年,フランスの科学者レオ・ミュールは観察をとおして「おーっ! もしかすると,ボロや麻でなくても,木材を材料として紙が作れるのではないか」とひらめいたのです。

その着眼がやがて植物材料から紙がつくれるという発見につながり,製紙業に革命をもたらすきっかけになったといいます。スズメバチとレオ・ミュールさんとの出会いに感謝,ですね。

じつは,この巣は公園にある歩道沿いで見かけたもの。万一のことがあればたいへんなので撤去することにしました。この報告は次回に。 

 


地域ミュージアムで考える(13)

2016-05-23 | 随想

 一組のご夫婦が,ジャガイモの種子栽培について紹介する展示コーナーで興味深そうに立ち止まっていらっしゃいました。

できればなにかひとこと解説できればと思い,近づいて声をかけました。すると,びっくり。どんどん質問をされるのです。

「ジャガイモの花のあとに,実ができるのですか」

「こんなにたくさん,実ができるのですか」

「どんな種類のジャガイモにもできるのですか」

「ジャガイモって,このように種から育てるのですか」

「種から育てると,ちゃんとイモができるのですか」

「店へ種を買いに行くと,手に入るのですか」

「種を植えるのと,イモを植えるのとでは,どんな違いがあるのですか」

「……」

と,こんな具合に。

わたしは一つひとつに納得していただけるよう解説していきました。そうして,展示している株をプレゼントすることにしました。その根元,地表には塊茎が剥き出し状態になって太っているのが観察できます。解説だけにとどめていては,ふしぎを深く感じておられるご夫婦の好奇心は満たされないでしょう。お聞きすると,奈良県からはるばる来館されたとのこと。

再来館される機会はなかなかないと思われます。「それなら! 展示用にはまた別の株を持ち込めば済む話」と判断したのです。


その後,栽培の話になりました。もちろん,注意事項についてどんどんお尋ねになるものですから,案内役の務めとしてわかっていただけるまで説明していきました。様子は終始とても興味深そうなのです。結局,別のプレゼント用の株も付けてお渡しすることに。

ミュージアムは経緯度上の特定地点に位置します。PRとして掲げているポイントについて解説すると,さっそく山を登って行かれました。そこは数十m離れた山腹にあります。

戻って来られて,「すてきな眺めでした。今日は来てほんとうによかったです」と,ひとことおっしゃいました。当たり前のことなのですが,おもてなしのこころを持って,丁寧に接するのがわたしたちスタッフの心得です。いつも一期一会をこころに,です。もうひとこと。地方の小さなミュージアムゆえにできるふれ合いなのです。

 


ツマグロヒョウモン,卵から孵化へ(3)

2016-05-23 | ツマグロヒョウモン

またまたまた肩透かしー!

過日確認していた卵が順調に変化をしているので,孵化をたのしみにしていました。卵を産付されたスミレは,我が家の庭に生えているもの。砂利の間から出て来ているので,とても観察しやすくって,わくわく感が膨らんでいたのでした。

5月22日(日)。朝見ると,上部が褐色がかっていてかなり近いうちに孵化を迎えそう。

5月23日(月)。午前6時前に見ると,孵化がそこまで近づいている様子。この日は仕事が休み。油断せずに観察を続ければ,孵化を激写できることはほぼ間違いありません。それで,この時点で撮影。

 


それから2時間後。「あれーっ!!」。溜息のような落胆が,そして悲鳴のような声が,からだじゅうを駆け抜けました。抜け殻があって,すでに多少なりとも食べられた形跡が残っているだけ。あらあら,ふしぎ! 幼虫は見当たりません。なんと,なんと,こんなふうに見逃してしまうとは!

 


それにしても,2時間の間にこんなにまで変化するとは今も信じられません。

二度あることは三度ある,そう思って諦めるほかありませんが,いのちの変化を見届けるのはほんとうにむずかしいものです。事例ごとの変化というものがあるので,タイミングがわからないのです。生きていることの複雑さ,スゴさが垣間見えます。次回のチャンスに望みを託しましょう。