すぐれた児童書はおとなのこころも引き付けます。内容が本質的でわかりやすく正確なので,説得力をもってそれが迫ってきます。著者が自らが余分だと思われる内容を削ぎ落とし,もっとも本質的だと考える部分をなんとか子どもに伝えようと努め,記述をも含めて十分吟味した結果です。そんな児童書に巡り合うと,こころに灯を得たようで,おとなのわたしまで限りなくワクワクしてきます。
ジャガイモのことをさらに知りたくなって,図書館でそれに関する児童書を数冊借りてきました。そのうちに一冊がなんと,長年のわたしの疑問を氷解させてくれたのでした。疑問というのは「ジャガイモの花にチョウが来ているのを見かけないけど,なぜか。ほんとうに来ないのか」「葯の表面に花粉がないのに実ができるしくみはどうなっているの」というもの。
著書名および著者・監修者名は書かないでおきます。著者は元教師,監修者は栽培・育種現場で長年ジャガイモの研究に打ち込んできた方です。子どもの目線に立って好奇心が満たされるように書かれていることがこれだけでもわかります。
本の中身に触れる前に。わたしは以前,あるジャガイモの育種研究施設に問い合わせたことがあります。そのときの回答はわたしにはまったく満足できるものではありませんでした。再現してみましょう。
わたし「実が生るには昆虫が来て花粉を運ぶはずなのですが,観察しているとときどきハナバチとかツマグロキンバエ,それにヒラタアブあたりが来るだけで,チョウが来ることはめったにありません(わたしが見たのは数回のみ)。チョウは来ないのですか」
研究者「どうなんでしょうか。確かに見かけない気がします」
わたし「花びらの色や蕊の色で昆虫たちにアピールしていれば,チョウにも目に付くと思うのですが,どうなんでしょうか」
研究者「うーん,よくわかりません。ジャガイモ畑でチョウが花にいるのを見かけることはありませんねえ。申し訳ありませんが,わたしにはその程度しかお答えできません」
こんなわけで,わたしはこの疑問をずっと抱き続けてきたのでした。疑問の氷解に至ったのですから,ずばり解決したというわけです。児童書のみごとな記述を引用しておきましょう。
「ジャガイモ畑の虫」の項で(写真の解説文)
・ヒラタアブのなかま 成虫は花の花粉を,幼虫はアブラムシを食べる。
・ツマグロキンバエ 緑色で眼がしまもようの小さなハエ。花の花粉を食べにやってくる。
・コアオハナムグリ 緑色をした小型のコガネムシ。花にきて花粉を食べる。
「花のつくり」の項で(写真の解説文)
・おしべの先にあるあな(とうや)。ここから花粉がでる。
・ジャガイモの花はみつをださない。だからチョウやミツバチはこない。くるのは花粉を食べるコガネムシやハエのなかまくらいだ。
・電子けんび鏡で見た花粉。ひとつの大きさは0.02mmくらい。花粉のできやすい品種とできにくい品種がある。
,
問い合わせで「蜜がないのでチョウは来ませんね」とでも教えてくださっていたら解決していたはず。わたしが数回見たチョウはモンシロチョウでした。吻を伸ばしていたので蜜を探していたのでしょう。でも空振りなのですね。やっとそのときの答えが得られました。
この児童書に刺激を受けて,わたしもクロースアップ写真撮影に挑みました。それは次回に。