井上靖は明治四十年(1907年)に旭川で生まれた。
翌年、朝鮮の動乱で第七師団に出動命令が降り、靖の父が従軍することになったので、靖と母は伊豆へ移った。旭川で過ごしたのは生まれてすぐの一年間でしかないが、井上靖が旭川に寄せる格別な思いを知って、あらためて井上作品を読んでみたいと思った。
以下、「幼き日のこと」から
「いつ、どこで生まれた?」
幼少の頃、こういう質問を受けると、私はいつも「五月に、北海道の旭川で生まれた」こう答えて、多少の誇りに似た思いを持った。
私は物心がついてからずっと、自分が生まれた旭川という町にも、自分が生まれた五月という月にも、理由のさだかでない誇りを感じていた。
ドミール絵手紙サークル
「11月のカレンダー」