らんかみち

童話から老話まで

キャットフード出汁巻、変だと言うのが間違ってる

2009年07月28日 | 酒、食
 かつて足しげく通っていた堺市にある場末の飲み屋のカウンターに、ある夜キャットフードの缶詰が並べられていて、さすがのぼくも抗議しました。
「マスター、なんぼなんでも客をなめとりゃせんか!」
 値の張るシーチキンを節約して、こっそりキャットフードで代替するならともかく、客の目の付く所へ、さありげに置くとは許せません。
「あぁこれ、お客さんが間違えて買うてな、あげるからどうにかしいや、いうから……」
 客であるお爺ちゃんの一人が奥さんに先立たれ、自炊を始めたものの上手くいかない。飲み屋に行かない独り酒の夜は缶詰でしのごうかとスーパーに行き、買ったのがキャットフードであったといいます。

「食べてみたら悪くないねん。只であげてもええねんけど、おれも一応商売やし……」
「分かったマスター、みなまで言いないな、お得意のシーチキン玉子焼きやってぇな」
 玉子焼きだけで酒の肴にならんこともないけど、ボリュームに物足りなさを感じる酒飲みは付加価値を求めたがるもんなんです。
出来上がった玉子焼きはいつもより色が濃いものの、カツオのサラダオイル漬けを使ったのと味は変わりません。油ギッシュでないのがむしろ好印象でしょうか。

 ここまで読んで、ゲロゲロ、こいつはゲテモノ食いか! と吐き気を催した方に申し上げたい。人間の食えないものを可愛いペットに食わせますか? いやイグアナにミミズを食わせるからといって、飼い主もそれを食えと言うとるんじゃありません。物事の順位について考察してほしいんです。
 たとえばある日、冷蔵庫の隅で眠っていたチーズが見つかった。いつのか分からんけど、まだいけそう。でも愛犬にやるのはどうよ、なら旦那のサラダに入れてみるか。

 普通の主婦の感覚ならそうなるんじゃないですか? もしキャットフードの注意書きに「子どもの手の届かない所に保管してください」とあったら、だれもそんな不気味なペットフードを買いませんよ。そう書かれていないということは、キャットフードを人間が食べたって、なんら問題はないということなんでしょう。
 どこか重大な欠陥がある論理のような気がしなくもないけど、キャットフードに関しては人も食えると言いたいわけです。

 わざわざ写真をアップしたりしませんが、往時を偲んでキャットフード出汁巻きをこしらえてみました。中国産のペットフードでアメリカの犬や猫が大量に死んだ記憶も新しいので、国産と表示のある缶詰を使いましたが、場末のマスターの味には遠いものでした。只のものを金に換える、錬金術根性をぼくが欠いているのかと思います。