らんかみち

童話から老話まで

素焼き、のち釉かけ

2009年07月10日 | 陶芸
 素焼き窯出しの8時半に着いたところ、窯の扉は既に開けられ、その前でお爺ちゃん二人がグッタリしてるじゃないですか。
 も、もしかして、熱中症! いえ、窯は開けたもののまだ熱くて触れなかったのと、お二人が時間の過ぎ行く風情を噛み締めていた、といったところでしょうか。

「うむ、来たかね、今日はせいぜい技を盗んで帰りたまえ」
 要釉斎先生はぼくに一瞥をくれてから窯出しを始めるかと思いきや、世間話を切り出すじゃないですか。いつになったら出すのかと気を揉んでいたときに写したのがこの絵です。
日記の内容からして、まずいかとは思ったんですが、まあええかぁ。

そうこうしている内にもう一人お爺ちゃんがやって来て、これで要釉斎一味のそろいい踏みです。
「全員そろったところで、そろそろ始めるとするか」
 全員そろった? そんな言い方をされたら、ぼくは要釉斎一派の新参者という位置づけみたいじゃないですか。ぼくはただ、エキストラとして参加したつもりなんですけど。

素焼き出しは粛々と進行して、次は釉薬かけに移るんですが、これこそが要釉斎先生に教わりたいところです。
「君ぃ、それは何かね?」
「あ、はい釉かけに使えるかと、コンプレッサーとスプレーガンを用意してみました」
「君は古典に学ぶ心構えを欠いておるようじゃが、まあ良かろう。陶芸にタブーは無いんじゃからのぅ」

 そんなこんながあって、気がついたら二人の手下は既に新窯の方に入れ終わってるじゃありませんか。
「何ぃ、新窯に本焼を入れたぁ? 血迷うたことをしてくれたもんじゃ!」
 あろうことか新窯を使うと聞いた先生は、気色ばみました。
「先生、そろそろ新窯も使いましょうよ、どのみち全ての作品が旧窯に入るわけじゃないんですから」
 非難する先生に対して、一味の一人が口答えするのを聞いて分かりました。手下の二人は新窯を使いたかったのに、今までずっと先生に遠慮してできなかったんです。そこへぼくの作品が割り込んだのを理由に、ちゃっかり新窯に二人の作品を入れてしまったんです。

 要釉斎一家はこれまで三人で安定していました。ぼくという不純物が紛れ込んでその安定が崩れたのでしょうか。旧窯にぼくと先生の作品だけが入ることとなって気がついたのは、ぼくが先生のお守り役を担わされているということ。
「君ぃ、井戸茶碗のカイラギというのは、所詮は出来損ないじゃ。それを当時の茶人たちが有り難がってだね……」
 要釉斎先生の話は尽きることを知りませんが、おなかも減ったし大雨が降りそうだったので、お先に失礼させていただきました。明日は本焼ですが、要釉斎一味に与した結果が出せるのでしょうか。