らんかみち

童話から老話まで

親指カクカク、カルパッチョ

2009年07月08日 | 酒、食
 右手の親指がカクカクするようになって一月余り、悪化の一途をたどっているので整形医院を受診しました。
「ろくろ指って言いましたぁ? それなんのこと」
 座頭の父つぁんに診断された病名を告げると先生は怪訝な顔で聞くので、カクカクシカジカ説明しました。
「あのねぇ、診断を下すのは医者、座頭の父つぁんでもなければ患者でもないの。この親指はね、だんぱつゆび、分かる?」
 先生ちょっとイライラしているかなぁとは思ったんですが、さらにもう一押しやってみました。

「断髪式なら知ってますが……」
「だれが相撲取りの引退の話を! だから、弾撥指、別名をバネ指というの。指を切断せにゃならんのよ」
 先生の言葉にぼくは凍りつきました。
「うそうそ、病名は腱鞘炎。でもね、医者を怒らせんほうがええよ、あんたの死亡診断書に『急性心不全』と書けるんだから。冗談だけどね」
 冗談と言いながら顔は笑っていなかった気がするものの、そこは田舎のお医者さん、気楽に付き合えるというもんです。

陶芸の初心者は何かというと大物を作りたくなります、背伸びをしたくなります、心の欲するままに矩を踰えたくなるんです。下手なくせに、ロクロで大皿など挽くから腱鞘炎になるんでしょう。

「ナボール・ゲル」という経皮鎮痛消炎剤を処方してもらって一安心したので、タイラギ貝のカルパッチョ風を作ってみました。腱鞘炎と何の脈絡もないように思われるかもしれませんが、貝柱というのは人でいうなら、筋肉と腱に相当するんじゃないでしょうか。