らんかみち

童話から老話まで

抱き合う二人

2008年12月11日 | 童話
つづき
   
   山崎「煮詰まってるのに、どうしてこんなにシャキシャキ感が……そうか、縦に切っているから繊維質が残っているのか」
   丸太のように切られたネギを拾い上げ、慎重に冷ましてから口に入れる。
山崎「甘い! ネギの旨みが逃げてない。断面が小さいから風味が流れ出さないのか、なるほど」
   しばらく白菜とネギを味わっていたが、思い出したように携帯でメールを打ち始める。
山崎「ネギも白菜も、とても美味しいよ。旨みがギュッと凝縮されているみたいだ。鍋奉行の座はきみに譲るから、戻っておいで」
   送信ボタンを押して携帯を閉じる、と次の瞬間、玄関の方から携帯の着信音が聴こえ、慌てて立ち上がる。
麻衣子「駅前で投売りしてたの。はい、クサンタさんの立っているリスマスケーキ」
   玄関を開けると、携帯を片手に山崎にケーキの箱を差し出す麻衣子。
山崎「来年のイブはホテルで夜景だ、約束するよ」
麻衣子「あら、鍋奉行は私に譲るんじゃなかった?」
山崎「あ、そうだったな。なら生涯、俺の鍋奉行でいてくれる」
麻衣子「もちろん、喜んで」
   玄関で抱き合う二人。
               (了)