らんかみち

童話から老話まで

「へしこ」を食って「ちりとてちん」

2007年12月04日 | 酒、食
 昨日は父の7回忌の法事でした。特別なことはしませんので、なにも兄弟が集まることもないのですが、バカ弟が家中をひっくり返しているのではと心配になったか、わざわざ関西方面から二人の姉がやって来ました。
 下の姉が、来る前に電話で、「土産は何が良いか」と聞いてくれたので、「焼き鯖」をお願いしておいたら、鯖街道のどこをどう迷ったのか、着いたときには焼き鯖が「へしこ」になっていました。

 へしこはNHKの朝ドラ「ちりとてちん」に登場して全国区に躍り出た若狭地方の保存食品で、丸ごとの塩鯖を糠付けにして半年から1年くらい熟成させたものです。値段は「焼き鯖寿司」と同じくらいでしょうか。「焼き鯖」よりは高価なものだし、この辺りでは通販に頼るしか手に入れる術が無いので大歓迎です。

 そのへしこを「上の姉」が目ざとく見つけてぼくに言いました。
「あんた、へしこなんか食べるんか?」
「そら食べるワイ、ぼくが頼んだ焼き鯖より嬉しいよ」
「あぁ、そうかぁ……。へしこの食べ方はね、まず糠を取って軽く水洗いする。塩辛過ぎるようならしばらく水を流したらええわ。そのあと水気をふき取って薄皮をはいだあと網に乗せて、できれば炭火であぶる。このときのポイントは焼き過ぎないこと。お茶漬けにして良し、生のまま刺身のように食べてもまた良し」

 とまあこんな風に長々とうんちくを垂れてくれたのはどうやら、食い方を教えてやったのだから分け前をよこせ、という意味だったようです。置いてたからといって傷む食品ではないですが、丸ごと一匹のへしこなのだから、「いいよ」と言ったら、
「よっしゃ! 半分にしておいてあげる」
と、包丁を持ち出しました。

 法事も滞りなく終わり、二人の姉を見送ってからへしこを食べようと思って冷蔵庫を開けたら何と! へしこは一刀両断にされ、頭部だけが残されていました。その切断位置たるや、「脂の乗った腹身か、サッパリした尾か」という生易しさではなく、食えない頭を切って捨てた、という方が正しいと思われました。

 そもそもへしこを作る工程は、干物を作るみたいに鯖を背開きにすることから始まるのだそうです。そこへ糠を詰めて熟成させるのですから、販売されている時点で既に半分になっているといってもかまわないし、実際に手で楽にお腹から千切れてしまうのです。
 誰が考えても、半分にするといったらこういうことではないでしょうか。それをわざわざ包丁まで持ち出して、むなびれ辺りから頭部を切り捨ててしまう真意が量りかねます。

 死んだ子の歳を数えても仕方ありませんので、母と二人で骨を除けながらへしこを食べたんですが、母はあまりの塩辛さに音を上げてしまいました。もちろんそのまま食べたんでは塩くど過ぎますが、熱々ゴハンに混ぜて食べたらそりゃあもう最高! 上質なチーズを味わっているようなさわやかな香りと、それでいてチーズでは味わえない旨味も口に広がります。若かった頃はへしこの味が分からなかったんですが、今はちゃんと評価できるようになったんですね~!

 今回は、姉という大阪の強欲なおばちゃんに一杯食わされた格好のぼくですが、同時にもらった「鮒寿司」という珍味は強奪を免れましたので、明日からはそちらを堪能したいと思います。