らんかみち

童話から老話まで

突発性難聴と診断され……

2007年05月25日 | 暮らしの落とし穴
 耳鼻科医院からの紹介状を携えて総合病院の門をくぐる前に、コンビニで水とおにぎり一個を買いました。左脇に傘を差しながらペットボトルの栓を開け、右手で飲みながら左手と口でおにぎりを開封しようとしたのですが、すれ違った女性に笑われました。よほど不恰好なんだな、と両手で三角の頂点を引っ張っろうとして、ポロリ! 
 
 濡れた地面に転がったおにぎりを呆然とながめ、恥を恐れずこれを拾い上げて食うべきか、それとも何事も無かった振りをして通り過ぎ、空きっ腹を託つのか、しばし熟考を重ねましたが、幸いにも開封された面が上であることが確認でき、あたりをはばかるように拾い上げて食いました。
 
 そういえば「このごろ良く物を落とす」と言われたことがあり、自分でもそう感じていて、フルートを吹いても指の回りが悪いと感じるし、こりゃやっぱり脳神経のどこかに障害があるんだな、総合病院でMRI検査なんかしたらきっと答えが見つかるに違いない、と期待したものの、みごとに裏切られました。

「突発性難聴ですね。入院してステロイド治療をしましょう」
 先生は紹介状を読んだだけでそう診断を下しました。
「入院って、いつからでしょう?」
「今からです」
「そりゃいくらなんでも性急ですね!」
「この病気、治せるとしたら、あと1週間がラストチャンスですよ。逃したいですか?」
 ラストチャンスと言われたら否も応ありません。アメリカに渡った桑田選手の心境に思いを馳せ、明日から入院することになりました。
 
「突発性難聴=とつなん」と呼ぶらしです。ウィルス説、ストレス説、いろいろ言われているようですが、原因不明で治療法の確立していない難病らしいです。
 発症してひと月が過ぎると回復率は極端に下がるらしいですが、実はぼくの場合はもうそれを過ぎてしまっているんです。
「10日の入院治療で治らなかったら……。そのときはまた相談しましょう」
 どうやら10日で治らなかったら諦めてくれと言わんばかの、その先生の表情にぼくは全てを理解しました。 

「神は人に、一つの口と二つの耳を与えた。それゆえ人は、話す倍の言葉を聞かねばならぬ」
 確か紀元前のギリシャ哲人の言葉だと思いますが、これからは聞くのが半分になるかもしれないので、そうなったらしゃべるのを倍にしようと思います。