ヤングキングアワーズ 2012年12月号より
以下、ネタばれあります。 (未読の方はご注意ください)
●ナポレオン -覇道進撃- (長谷川哲也 先生)
平和の終わり。
アミアン条約によって保たれていた平和は、
マルタ島の帰属権を巡る問題をきっかけに、ナポレオンの怒りをかって決裂。
この条約に関しては、タレーランの尽力が大きかったらしく、
「苦労してまとめた平和が」と、おどけた感じでいますが残念そう。
しかし、マルタ島は地中海の要ともいえる場所、そこをおさえることの意味は計り知れない。
ここでナポレオンとタレーランの見解は相違をみせていますが、
これも軍事的観点から見ているナポレオンと、平和外交をモットーとするタレーランの違い
ということになるのでしょうか。
ただ、ナポレオンがとったピエモンテ併合という措置が、はたして必要だったのかどうか、
このあたりよくわからないのですね~。 どのように評価されているのか知りたいものです。
不穏な空気が高まる中・・・
カドゥーダル事件の黒幕として容疑をかけられたのが、
ルイ16世のいとこにあたる、現在亡命中のアンギャン公。
今回は、この人物をめぐって物語が動くことになります。
ポッと出てきたような人でしたが、ナポレオンにとっては重要な存在になりましたね・・・
また、彼の可愛がっているモイロフという犬も、ちょっとした意味を持つことに。
アンギャン公逮捕の任につく者。
実際には、コランクールとオルドネが派遣されたらしいのですけども、本作ではダヴー。
はじめネイを選ぼうとしたナポレオンが、思い直してダヴーを指名していたのは面白い。
国外にいる王族を拉致するという任務が、いわば汚れ仕事であることは明白。
それゆえに必要とされたことを、ダヴー自身が自覚しており、かつネイに語るやりとりは、
ダヴーのもつ鋼の精神を感じさせるものでした。 ・・・というか、カッコよかった!
自分はナポレオンの犬である、と自ら述べるダヴー。
アンギャン公を捕え、その後も汚れ仕事を遂行する彼のストイックさは、もはや暗黒。
ついにナポレオンが「王族殺し」となるまでの流れは、まるで映画のワンシーンであり、
雨という演出が、冷たく、そして寂しいものでありました。
訪れるその瞬間、目を見開いたナポレオンの表情が突き刺さってきます。
しっかりと見届けるダヴー。
動揺することなく遊戯に興じるタレーラン。
第1執政が自分と同じ場所に立った歓びにうち震えるフーシェ。
すべてが終わった後、ダヴーに向けられたネイの笑顔、そして言葉。
これらにも、たまらんものがありましたが、
さらに“残った仕事”を片付けるダヴーの行動が・・・ すさまじかった。
いなくなった主を探すモイロフへの措置は、執政の犬と自覚しているダヴーに重なるもの。
主と共に逝くことを強いた彼は、自分がナポレオンと運命共同体であることをも
受け容れているのでしょうね・・・ そんな切ない心情が、沈黙から伝わってきました。
そしてこのことが、最後に示されたナポレオンの言葉とあいまって、
責任の重さを感じさせる点も、また秀逸。
このラストシーンには、不覚にも目頭が熱くなってしまいましたよ・・・
とても不穏な暗闇を感じざるをえなかったのですが、
それだけにナポレオンの「覇道」も際立つエピソードだったのではないでしょうか。
そうしたことを、しみじみ考えつつ・・・ 今後も楽しみです!
なお今回のお話は、長谷川先生の目次コメントによりますと、
「ゴルゴ13・南仏海岸」が元ネタであるとのことです。