散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

広がるワールドディスオーダー~永井陽之助1991年

2015年01月29日 | 永井陽之助
イスラム国による日本人人質事件は、1週間以上経過した。この事件を通して、彼の地の戦乱の激しさとテロの凄まじさを、改めて知らされたと感じる。安倍首相の首脳外交での人道的支援2億ドルを逆手に採られ、人質を捕えられ、同額の身代金を要求された。

日本国は“無秩序化”の震源地からの振動を身に滲みて感じた処であろう。しかし、半年前の記事で示した様に、25年前、永井陽之助は日経新聞紙上で民族主義とエスニックパワーの台頭で世界は震駭させることを予測している。ここでは、当時の新聞の切抜きを示し、重複もあるが、内容をより詳細に伝えていく。
 『民族・宗教の対立による世界的無秩序の広がりを予測140617』

 「日経新聞(1991/10/19)」

表題は「知的探検―広がるワールド・ディスオーダー」、
副題に『際限なき民族主義が世界的な無秩序を招く』とある。

まとめると、
『冷戦構造の終焉を喜んでばかりはいられない。
近代文明とイデオロギーという普遍主義の求心力を失った世界は、
再現のない民族主義とエスニックパワーによって拡散しつづけている。
歴史の不確実性はいよいよ深まり、いま、静かに進行しているのは「新世界秩序」ではなく、「ニュー・ワールド・ディスオーダー」という危険の増大だ』。

ここでは、探求の結果としての著作物を先ず、紹介している。
「『現代と戦略』は永井氏の代表作であるばかりではなく、日本人による数少ない本格的な戦略論である」。そう聞くと、他に本格的な戦略論が何かあるかなぁ、と考えてしまう。『平和の代償』には、孫子から毛沢東、キッシンジャーに至る文献が紹介され、日本人の『戦略論』は無かったはずだ。

『日本人はあまり知らないが…冷戦時代の戦略の基本は奇襲攻撃を如何に防ぐかという「青天の霹靂シナリオ」で、パールハーバーの教訓に基づいている』。
『米国はこれまで24時間体制を敷いていたが、その体制を解除し、一方的に核軍縮を進める…それにゴルバチョフ大統領が応えた…各共和国に分散している核兵器は非常に危険…全部キャンセルに…それに米国が救いの手を差しのべた』。

政治の世界は予測可能性によって担保される。これは基本の「キ」だ。
『冷戦時代の方が、確実性があったし、予測可能だった…ソ連はイデオロギーの国…その枠組で行動…今では、ソ連はイデオロギー国家ではない…この核大国の行動は全く予測不可能…それに民族問題が噴出している』。

『…冷戦の二極構造が求心力になって、東西両陣営に潜在していた“エスニック・コンフリクトをほぼ完全に凍結…その求心力が融解…ソ連は共産主義という普遍主義が崩壊したことの二つが重なって、民族問題が噴出…』。

『…米国は「アメリカン・デモクラシー」という強力なイデオロギーで成立…その統合の原理、普遍主義が近年急速に力を失って…エスニックごとに自己隔離化…』
『…文化相対主義、文化多元主義に基づく、エスニック・アイデンティティを主張する潮流が米国に始まって…世界中に広がって本当に火がついたら大変…』。

『「近代」という普遍主義をテクノロジー中心の文明…今世界で起こっているのは「文明対文化」の対立の図式…求心力を失って、世界が猛烈な勢いで拡散…』。

記事の最後に印象的なフレーズがある。
『民族自決を際限なく進めていけば、世界が“バルカン化”する』。
『エスニック・ナショナリズムは性欲と似て、崇高な愛に昇華することもあるが、嫉妬、怨念、憎悪をかきたてる可能性のほうが大きい。その意味で今日の世界は、危険と不確実性をいよいよ深めている』。

      
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