散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

少子高齢化という「衰退」を楽しむ日本~人口歴史学的な見方

2015年01月17日 | 現代社会
『帝国以後』(2002年)で米国の衰退を予言した歴史人口学のエマニュエル・トッド氏が「日本の少子高齢化」について、フランスとの比較を語った。

先ずは、人口統計学の現代的事象との関わりについて述べる。
「日本では速水融・慶大学名誉教授が歴史人口学の父だ。彼は仏、英の手法を持ち込んだ。私は現代に関連する研究に関心を持つ。人口統計は誤魔化せない。歴史人口学は、人々の行動、結婚、出産など文化的背景が分かるから面白い」。

「歴史人口学と経済の統計の手法は同じではない。前者の統計は単純で、人が生まれて死ぬという人間行動が対象だ。データに内部一貫性があるから、統計を勝手に変更できない」。
「例えば、ソ連の経済統計は完全にデタラメだ。その統計は、上向きのものばかり、生産では、壊れない製品を創造できるが、人は必ず死ぬ。乳児死亡率が上昇していることを示すデータを、改竄できるかといえば、それは不可能だ」。

「また、乳児死亡率では米国は千人当たり6人。日本は非常に低くて2.5人。フランスは3-4人。ロシア、ウクライナは、米国と同じく6人。米国はGDPでは、強国だが、乳児死亡率では、ロシア、ウクライナ並みだ」。
「この事実は、米国が単に世界で最も偉大な国ではなく、社会に問題が潜むことを示す。経済データだけでは、社会に潜む問題に到達するのは不可能だ。GDPだけでは、そういう問題を見極められない」。
「米国ではネガティブな統計だけではない。10代女性の妊娠率が大幅に下がっている。これは、米国社会が以前より少し安定してきていることを示している。

続いて、仏の例を日本へ向けて紹介する。
「仏は合理的だ。子供を産むことはフランス人の唯一得意なことだ。産児制限、堕胎を最初に実行した国だからだ。勤労者階級が子供を生むのはどの国でも普通だが、仏では中流や上流階級でも出生率が高くなっている。」

「フランスで何が起きているかというと、基本的に個人主義の国で、個人が自由に行動できる。実際、出産の55%は非嫡出子だ。非嫡出子を不都合であると気にしない。国家がそうした家族を援助する重要な役割を果たしている。」

「特に教育が重要だ。フランスでは政府の教育費補助によって、幼稚園から大学までほとんど無料になっている。中流階級の女性にとって、子供を産むことは人生での劇的な決定ではない。教育費の負担は幼稚園からほんの少しだ。」

「少子化の解決策は、国による家族支援が効果を発揮するということだ。現在の日本ではかなりの割合で大学などの高等教育を受けている。子供を産んで高等教育を受け、有能な大人に成長するまでに25年はかかる。」

「そういう状況で子供を産むという決断は、国が手厚い支援をしない限り、重大なものになる。ヨーロッパと違い、日本では女性が働いて同時に子供を産むということが非常に難しい。フランスのように中流階級の家庭に国から大きな支援はない。膨大なコストを要するからだ。」

「私はフランスがお手本だとか、その教育制度を導入すべきと言っているわけではない。フランスの出生率が高く、特に中流階級の女性が国から手厚い援助を受けていることが出生率上昇の背景にあるということだ。」

「米、西欧諸国、日本でも、仏、スウェーデンのような国は、政府支出の大半が社会サービスに注入されているとの誤った見方をされている。低所得層ではなく、中流階級がその教育制度の恩恵を受けている。」

「中流階級が明確に国家の介入を求めることだ。日本人が、国家の介入に賛成することを祈っている。そう主張すると、国家に批判的な左翼ではなくなるが。仏、スウェーデンは中流階級に多くの資金を投じている。」

「日本人は出生率の問題を意識しているが、それが唯一の問題であることに気づいていない。長い歴史を見ても、出生率が日本にとって、唯一の重要事項だ。日本人は完璧なまでに見事に少子高齢化という「衰退」を楽しんでいる様に感じる。過去10年、少子化問題が騒がれている割に、少しも変わっていない」。

最後に世界への見方を歴史人口学の立場から次の様に述べる。
「欧州が生み出しそうな大惨事に気づいている。一方、米国社会では明るい兆候も見えている。2002年頃、ヨーロッパの将来は非常に有望であり、英米をはじめ英語圏のパワーは低下すると予言した。今、それが逆に動いて、ヨーロッパが非常に大きな過ちを犯しそうで、英語圏が何らかの形で復帰しているという形でバランスがシフトしている。」

      
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