7月9日(日)曇り【朝顔】
6日から昨日まで東京の入谷鬼子母神で朝顔市が開かれていたようです。私が今、研究している室町時代の禅僧の語録の中に、朝顔に因む七言絶句が丁度あったので、簡単な語注を付けてご紹介しておきます。禅僧が詠んだ漢詩としては意外と艶やかです。
室町時代にも朝顔が今頃の時期には咲き乱れていたのでしょう。
牽牛花 *牽牛花(けんぎゅうか)
開落朝昏花両般。 *朝昏に開落す花の両般。
夤縁朶蔓蔓籬端。 *朶蔓、夤縁(いんえん)す蔓籬(まんり)の端。
莫将名字疑顔色。 *名字を将(も)って顔色を疑うなかれ。
不是劉家黒牡丹。 *是れ劉家(りゅうけ)の黒牡丹(こくぼたん)ならず。
【語注】
○牽牛花=朝顔のこと。旋花科の一年草。花は大形で漏斗状。『事物紀原』の「草木花果部」にその名のいわれが出ている。「牽牛、本草補注曰、始出田野人牽牛易薬、故に以名之。」
○朝昏に開落す花両般=朝に開き夕方に萎むというのは朝顔の二つの顔である。
○朶蔓、夤縁す蔓籬の端=蔓のかきねの端に、朝顔の花や蔓が絡みついていること。
○名字を将って顔色を疑うなかれ=牽牛花という名前からその樣子を想像してはなりません。
○是れ劉家の黒牡丹ならず=牽牛花は牛という字を含むが朝顔のことであり、逆に黒牡丹は牡丹という花の名を含むが牛の異名である。文字面に左右されまいという意を含んでの七言絶句。黒牡丹は『事類全書』に劉訓という人に因んでこの名の謂われがでている。「以観牡丹為勝賞、訓邀客賞花。乃繋水牛数百在前、指曰、此劉氏黒牡丹也。」
牽牛花 牽牛花
顔色挼藍映露光。 *顔色藍(あい)を挼(も)んで露光を映す。
渾無暮艶有朝粧。 *渾(すべ)て暮艶(ぼえん)なくして朝粧(ちょうしょう)有り。
漢家薄命三千女。 *漢家(かんけ)薄命なる三千女。
蛾緑眉愁待未央。 *蛾緑(がりょく)の眉(まゆ)愁いて待つこといまだ央(や)まず。
【語注】
○顔色藍を挼んで露光を映す=朝顔の花の色は藍を揉み込んでいるようであり、その花についた朝露に朝の日の光が映り美しい様子。
○渾て暮艶(ぼえん)なくして朝粧(ちょうしょう)有り=朝顔は朝咲き夕には萎むことから、次の三句目、四句目を引き出している。暮艶と朝粧という熟語はこの作者の造語であろう。
○漢家薄命なる三千女=漢の武帝は多くの美人を寵愛したが、薄命なる朝顔をそれらの美人三千女として形容している。
○蛾緑の眉愁いて待つこといまだ央まず=蛾緑はペルシャから産出する黛の名。宮中の美人は眉に蛾緑を引いて(朝の化粧をして)天子の寵愛を待っていたのであろうが、朝顔が咲き乱れている樣子はまるでそのような樣子である、の意。
*皆さんのお家には朝顔がありますか。私は朝顔の苗を求める余裕がまだありません。でも毎年咲いてくれる白と紫の桔梗が無聊を慰めてくれています。
6日から昨日まで東京の入谷鬼子母神で朝顔市が開かれていたようです。私が今、研究している室町時代の禅僧の語録の中に、朝顔に因む七言絶句が丁度あったので、簡単な語注を付けてご紹介しておきます。禅僧が詠んだ漢詩としては意外と艶やかです。
室町時代にも朝顔が今頃の時期には咲き乱れていたのでしょう。
牽牛花 *牽牛花(けんぎゅうか)
開落朝昏花両般。 *朝昏に開落す花の両般。
夤縁朶蔓蔓籬端。 *朶蔓、夤縁(いんえん)す蔓籬(まんり)の端。
莫将名字疑顔色。 *名字を将(も)って顔色を疑うなかれ。
不是劉家黒牡丹。 *是れ劉家(りゅうけ)の黒牡丹(こくぼたん)ならず。
【語注】
○牽牛花=朝顔のこと。旋花科の一年草。花は大形で漏斗状。『事物紀原』の「草木花果部」にその名のいわれが出ている。「牽牛、本草補注曰、始出田野人牽牛易薬、故に以名之。」
○朝昏に開落す花両般=朝に開き夕方に萎むというのは朝顔の二つの顔である。
○朶蔓、夤縁す蔓籬の端=蔓のかきねの端に、朝顔の花や蔓が絡みついていること。
○名字を将って顔色を疑うなかれ=牽牛花という名前からその樣子を想像してはなりません。
○是れ劉家の黒牡丹ならず=牽牛花は牛という字を含むが朝顔のことであり、逆に黒牡丹は牡丹という花の名を含むが牛の異名である。文字面に左右されまいという意を含んでの七言絶句。黒牡丹は『事類全書』に劉訓という人に因んでこの名の謂われがでている。「以観牡丹為勝賞、訓邀客賞花。乃繋水牛数百在前、指曰、此劉氏黒牡丹也。」
牽牛花 牽牛花
顔色挼藍映露光。 *顔色藍(あい)を挼(も)んで露光を映す。
渾無暮艶有朝粧。 *渾(すべ)て暮艶(ぼえん)なくして朝粧(ちょうしょう)有り。
漢家薄命三千女。 *漢家(かんけ)薄命なる三千女。
蛾緑眉愁待未央。 *蛾緑(がりょく)の眉(まゆ)愁いて待つこといまだ央(や)まず。
【語注】
○顔色藍を挼んで露光を映す=朝顔の花の色は藍を揉み込んでいるようであり、その花についた朝露に朝の日の光が映り美しい様子。
○渾て暮艶(ぼえん)なくして朝粧(ちょうしょう)有り=朝顔は朝咲き夕には萎むことから、次の三句目、四句目を引き出している。暮艶と朝粧という熟語はこの作者の造語であろう。
○漢家薄命なる三千女=漢の武帝は多くの美人を寵愛したが、薄命なる朝顔をそれらの美人三千女として形容している。
○蛾緑の眉愁いて待つこといまだ央まず=蛾緑はペルシャから産出する黛の名。宮中の美人は眉に蛾緑を引いて(朝の化粧をして)天子の寵愛を待っていたのであろうが、朝顔が咲き乱れている樣子はまるでそのような樣子である、の意。
*皆さんのお家には朝顔がありますか。私は朝顔の苗を求める余裕がまだありません。でも毎年咲いてくれる白と紫の桔梗が無聊を慰めてくれています。