mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

「かんけい」の底辺に流れる人の美しさ

2015-04-20 08:03:21 | 日記

 梨木香歩『からくりからくさ』(新潮社、1999)を読む。この作家の作品は、これで4冊目。昨年刊行された『海うそ』(2014)に書き込まれた自然や文化に向き合う姿勢に共感するとともに、教えられるところが多かった。それで図書館から借りだして『裏庭』(2001)『f植物園の巣穴』(2009)とつづけて読んだ。『裏庭』は子どもの内面がどうかたちづくられてくるかを主題としている。『f植物園の巣穴』は大人になって振り返った己の内面の混沌とそこに潜む罪責感に向き合っている。

 

 『からくりからくさ』(新潮社、1999)は、染色や織物、デザインに関心を傾ける若い女性研究者たちの身体性や感性に織り込まれている、代々受け継がれてきた文化的遺伝子が社会的関係の中に脈打っていることを描き出そうとしたもの。著作の順序を考えると、「からくりからくさ」がいちばん最初で、「裏庭」「f植物園の巣穴」という順序になる。つまり、モチーフは一貫していて、最初の「概観」から、微細に分節化して関心が凝縮されていっているという格好である。

 

 この作者の文体は、植物観察の丁寧さと、観察する自分の目が実に細やかに変容していくことを見逃さない確かさを感じさせる。そうして、その様に登場人物のパーソナリティを描きとめる美しさに、ほれぼれとする。と同時に、私の読み取りの及ばない地平を垣間見せているように思える。それは、「かんけい」に底流する(現にそこに実存する)人の美しさといえようか。さらに次の作品を期待する思いが胸底に揺蕩うのを感じている。こんなふうに、人のことを受け容れることができると、生きることが愉しくなるに違いない。