自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆最期の物語を演出

2011年12月23日 | ⇒トピック往来

 それにしても見事、あるいは完璧だった。今月17日8時30分の死去から19日正午の発表まで、51時間余り及ぶ情報統制である。北朝鮮の金正日総書記の死亡は完璧に伏されていた。逆に言えば、情報社会とは無縁、スパイすら入れない密閉体制なのである。

 一方で、発表までに51時間余りという時間を費やす必要があったのかどうか。考察するヒントとなるニュースがいくつかあった。韓国中央日報インターネット版(日本語)によると、韓国の国家情報院の元世勲院長が20日、「北朝鮮が金正日総書記死去の時間と発表した17日午前8時30分に金総書記の専用列車は平壌竜城駅に停車中だった」と報告したと複数の与野党情報委員が伝えた。さらに引用すると、元院長は「金総書記は15日に現地指導をはじめ色々な行事があり、列車の動線を確認したが16~17日の2日間は動かなかったものと把握している」と説明した。金総書記が「走る野戦列車の中で重症急性心筋梗塞により死去した」という北朝鮮当局の公式発表とは違い、「待機中の列車」あるいは「第3の場所」で死去したということだ。ただし元院長は、「金総書記がどこかに行こうと列車に乗ってすぐに死去した可能性はある」と付け加えたという。

 日本の新聞各紙が伝えている、北朝鮮の朝鮮中央通信が19日報じた18日付の「金正日同志の疾病と死去原因に対する医学的結論書」の全文は以下の通り。「金正日総書記は心臓および脳血管疾病により長期間治療を受けてきた。強盛大国建設のため超強行軍で重なった精神、肉体的過労で、17日に走行中の野戦列車内で重症急性心筋梗塞が発生し、深刻な心臓性ショックが合併した。発症からすぐに全ての救急治療対策を講じたが、17日午前8時半(日本時間同)に逝去した。18日に行われた病理解剖検査では、疾病の診断が完全に確定された。」

 これらのニュースを突き合わせると、北朝鮮サイドは「金総書記は走行中の列車の中で心筋梗塞」と発表しているが、韓国側では「列車は16日、17日とも動いていない」と認識している。つまり走行中の列車の中での容態悪化ではなかった、と。その死から発表まで51時間余の時間がかかったというのも、ひょっとして「強盛大国建設のため超強行軍で重なった精神、肉体的過労で、17日に走行中の野戦列車内で重症急性心筋梗塞が発生」という「偉大な指導者の最期の物語」を描くストーリー構成に時間がかかったということか。とすれば、これまもまたある意味で見事な演出国家ではある。※連日、北朝鮮の関連ニュースを伝える日本の新聞各紙

⇒23日(祝)朝・金沢の天気   くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする