自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆時代の先端に立て

2009年01月02日 | ⇒メディア時評

 元旦に届いた年賀状。パソコンで加工できるようになり、さまざまに工夫が凝らされカラフルに、そしてメッセージ性にあふれたものが多くなったように感じる。動物写真家F氏からもらったものは、寝そべったニホンカモシカがじっとこちらを睨んでいる凄みのある画像が印刷されていた。国際ジャーナリストのK氏からは中国・四川大地震の取材で最も震源地に近い映秀の被災現場をバックに撮影した自身の姿がプリントしたものをもらった。そして、「今年も《この国の行方》と共に、中国、朝鮮半島の《現場》を取材したいと思っています」と抱負が記されてあった。それぞれが体を張って現場に、あるいは最先端に立っているのだ。

  さまざまなジャンルの職業の方々から年賀状が届いた。が、グチがこぼれていた業界もあった。新年のあいさつなので、新年早々から「グチはこぼさない」のが通り相場なのだが、どうやらテレビ業界は「グチをこぼさないとやっていられない」といった感じだ。旧知のあるローカル局の幹部からは「閉塞感漂うTV業界です。ローカルの役割が見直されて欲しい時代です」と、また、別の局の若手からは「厳冬のTV業界で寒さがひとしおです」とそれぞれ添え書きがしてあった。また、これはグチではないが、他の局の若手からは「テレビの世界も激動の時代に入りました。地方局として存在感を持ちたいと思います」と覚悟のほどが伺えた。ため息が漏れるのも、過日の「株価に見るテレビ業界」で述べたように、キー局、準キー局ですら中間決算が赤字となっていて、ローカル局も相当厳しい数字になっているからだろう。

  気持ちは理解できる。むしろ、閉塞感、厳冬、激動の時代だからこそテレビ業界は時代の先端に立ってほしいと思うのである。たとえば環境問題。テレビ局は「装置産業」といわれるほど編集、CM送出、送信などのために巨大な装置(システム)を構築し、電気を使っている。環境のためにカーボン・ニュートラルの発想で、二酸化炭素(カーボン)を相殺(ニュートラル)するための植林活動を率先して行ったらどうだろうか。テレビ局は環境問題に対し「啓発番組」をつくればそれで事足りるという傾向がある。テレビ局の社会的責任(CSR)というのはそれだけに留まらない。番組を放送すると同時に率先垂範しなければ、視聴者は「本気」とみなさないのである。つまり、信用を得ることにはならない。

  デジタル化にしても、放送画面はハイビジョンでクリアにはなったが、ワンセグ放送やデータ放送による視聴者との双方向性はどうなったのだろうか。コンテンツに革新性がなく、視聴者からはすでに飽きられているのではないか。もし、こんなことのために2011年7月24日にデジタル波へ完全移行するとなると、視聴者から「割に合わない」と大ブーイングが起きそうな気がする。デジタル放送が実感できるような放送イノベーションを起こしてほしいと願う。

  もう一つ。地域の放送局は地域のためのメディアであることを前提に国から放送免許をもらっている。ところが、地域に根ざした自社制作番組はどうだろうか。すべての局とはいわないが、各局とも自社制作番組の本数、あるいは自社制作比率が減っているのではないだろうか。そして、この経営状態が厳しい中では、「番組をもっとつくろう」という制作サイドの意欲さえ削がれているのではないか。最先端のメディアであるテレビ局が時代の先端に立たず、「内こもり」になることを危惧する。

  試しに、コストをかけずに番組をつくり、環境保護活動に全社員が参加する。そんなキャンペーンを張ってみたらどうだろうか。まず一点突破で実践してみる。そこから拓かれる知恵もある。

※【写真説明】トキ、ニホンカモシカ、タヌキと今年の年賀状にネイチャー志向が見える。

 ⇒2日(金)午後・金沢の天気   くもり

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