「地域のニーズ(要望)を研究のシーズ(種)に変える」。大学で社会貢献を担当する者にとってこんなにおいしい話はない。地域の課題解決そのものが大学の研究となって実を結ぶのだから一挙両得とも言える。
先日、石川県から「ヘルスツーリズム」の研究委託を受けた准教授(栄養学)から相談があった。「能登の料理を研究してみたいのですが・・・」と。委託したのは県企画振興部で、健康にプラスになるツアーを科学的に裏付けし、新たな観光資源に育てるという狙いが行政側にある。キノコや魚介類など山海の食材に恵まれた能登は食材の宝庫だ。准教授の目の付けどころは、その中から機能性に富んだ食材を発掘し、抗酸化作用や血圧低下作用などの機能性評価を行った上で 四季ごとにメニュー化する。能登の郷土料理でよく使われる食材の一つであるズイキの場合、高い抗酸化作用や視覚改善作用が期待されるという。
以前、能登半島にある珠洲市から食育事業に大学の知恵を貸してほしいとの依頼があり、郷土料理のレシピ集の作成をお手伝いした。金沢大学が設立した「能登半島 里山里海自然学校」の地域研究の一つとして、地元の女性スタッフが100種類の郷土料理を選び、それぞれレシピを作成するという作業を始めた。その手順は①普段食べている古くから伝わる家庭料理を実際に作り写真を撮る②食材や料理にまつわるエピソードや作り方の手順をテキスト化し、写真と文をホームページに入力する③第三者にチェックしてもらい公開する‐という作業を重ねた。普段食べているものを文章化するというのは、相当高いモチベーションがなければ続かない。スタッフは「将来、子供たちの食育の役に立てば」とレシピづくりに励んだ。それが1年半ほどで当初目標とした100種類を達成。それなりのデータベースとなり、同市の学校給食や、PTAによる食育イベントに生かされるようになった。
准教授はこのレシピづくりの経緯を知って、県から依頼されたヘルスツーリズムの研究に生かしたいと協力を申し入れてきたのだ。こうして地域の食育事業の支援、郷土料理のレシピづくり、そしてヘルスツーリズムの研究へと一連の流れが出来上がった。こんな「おいしい話」ばかりだとよいのだが…。
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