自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆メディアのツボ-57-

2007年07月09日 | ⇒メディア時評

 裁判における弁護のあり方はこれでよいのだろうか、と思ってしまう。今月9日、大阪高裁で行われた元NHK記者(26)の連続放火控訴審で、弁護側が改めて「犯行当時、心神喪失状態にあり、建物を延焼させる意図もなかった」と改めて無罪を主張したとの記事のことである。

       意識なきままにつくられる偏見

  元NHK記者は大津市などで2005年4月から6月にかけて、JR大津駅付近の住宅を全焼させるなど大津市や大阪府岸和田市で8件の放火や放火未遂を繰り返した(1審判決)。大津地裁で懲役7年の実刑判決を受け、9日に控訴審の初公判。上記の無罪を主張し、この日、結審した。判決は9月と4日に言い渡されるという。

  事件発生当時の記事を読み返すと、この記者は火災現場近くで警察から任意で事情聴取を受けた際、本人は酒に酔っていた、と報じられている。また、別の紙面では、「休みがほとんどなく、泊まり勤務も大変だ」などと他社の記者に愚痴をこぼしていたらしい。つまり、プレッシャーに弱い当時24歳の記者が酒の勢いで放火に及んだという割と単純な構図だった。

  事情聴取を受けた翌日から傷病休暇をとって、入院した。うがった見方をすれば、警察にマークされたのに気づき、あわてて病院に逃げ込んだのだろう。ところが、尾行がついているとも知らずに、後日、性懲りもなく放火を繰り返した。この時は尾行していた捜査員が火を消したのだから動かぬ証拠となった。それが現行犯逮捕ではなかったのは、入院という状態だったからだ。警察は、本人が退院したのを見届けて、主治医と相談しながら本人の責任能力が問えると判断し、逮捕に踏み切ったのだ。

  罪を軽くするために、「心神喪失状態」を声高に叫び、量刑の駆け引きに使っているが、結果として、罪を「心神」の問題にあえてすることで、心の障害を背負った多くの人たちを巻き添えにしていることにならないか。心の障害を持った人たちへの偏見というのはこうした弁護手法から生み出されることも一因であると思えてならない。

  もちろん、弁護側は「法廷で述べただけであって、メディアがそのことを大きく取り上げているにすぎない」「もし、偏見を助長しているというのであれば、それはメディアの方だ」と主張するだろう。そして、メディア側は「法廷で述べられたことを事実として取り上げたにすぎない」との立場だろう。こうして、意識なきままに偏見はつくられていく。

 ⇒9日(月)夜・金沢の天気   はれ

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