ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国の人口当たり自殺率は世界一の高さ ・・・・ 「生命の橋」麻浦大橋のこと等

2013-12-01 16:44:47 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 11月23日(土)の「朝鮮日報」の読書欄で大きく取り上げられていたのがチョン・ジョンファン(천정환 자살론)成均館大教授による新刊書「自殺論(자살론)」でした。

      
           【大きな見出しは「自殺・・・選択か、社会の傍観か」。】

 この記事の本文は→コチラで読むことができます。

 チョン・ジョンファン教授によると、「自己啓発の言説は、個々人の人生を事業として対象化して、一人で負うべき責任の負担を増大化した。世渡りと自己管理は近代の幕開け以降続いてきたが、新自由主義の深化がそれをより深刻で残酷なものに再構成した」とのことですが、それはおいといて、私ヌルボがまず注目したのはそこに載っている写真です。
      
   【キャプションには「ソウル漢江大橋に自殺予防の言葉が刻まれている。1日40人が自ら命を絶つ韓国はOECD諸国の中で自殺率(10万人当たりの自殺者数)1位だ」と書かれています。】

 橋に記された言葉は「夜明けは必ずやってくる」です。

 漢江の橋からの投身自殺というと、思い出されるのが映画「彼とわたしの漂流日記」(原題「キム氏漂流記」)です。(内容紹介は→コチラ。)
 失業した男が投身したものの失敗して漢江の中の島のパム島に漂着して・・・という設定の映画です。後で調べたら、パム島は西江大橋(서강대교)の下ですが、撮影した橋は元暁大橋(원효대교)だそうです。

 つまりは、それだけ漢江の橋から投身する人が多いということで、その対策として上の写真のように橋に自殺を思いとどまるような言葉が記されるようになっているのですね。

 韓国サイトで関係記事をいろいろ読んでみたところ(→コチラ等)、漢江の橋から投身自殺を試みた人の数は2009年201人、10年193人、11年196人、12年148人で、13年は7月末までで102人に上っているとのこと。
 そして09年以降漢江の橋の中で一番自殺を試みた人の数が多かったのが麻浦大橋(마포대교)の110人。以下漢江大橋(한강대교)64人、西江大橋(서강대교)58人と続いています。

 とくに麻浦大橋は月当たり1.8人が投身しているということで、市は最近この橋を「生命の橋(생명의 다리)」として改装し、自殺防止キャンペーンを展開して市民や各種メディアの注目を受けていると報じられています。
 その「改装」が具体的にはたとえばこのようないくつもの呼びかけのメッセージ。センサーで歩行者の動きを感知して、歩幅に合わせて自動的に点灯するようになっているそうです。

       
    


 そして橋の中央部には、下のような造形物も設けられました。

     
         【左奥のハート印は募金箱です。】

 なぜ麻浦大橋での投身が多いか? →コチラの記事(日本語)によると「他の橋より歩行者の接近が容易」、「ヨイドの証券街が付近に位置している」、「地下鉄の駅からも近い」という理由があげられています。

   
  【西江大橋と麻浦大橋、国会議事堂に近いというのも何か関係があるのでしょうか?】

 「生命の橋」麻浦大橋の自殺対策の続きです。
 次のメッセージは一連のものになっています。

   
       【「電話があるじゃないの」】

   
       【「さあ、あなたの話」】

   
       【「一度話してみて」】

 そしてその先にあるのが・・・。

   
       【「生命の電話」 】

 実際に、この電話での会話を通して自殺を踏みとどまった人が何人かいたそうです。

 またCCTVの設置も拡大し、救助率は過去4年が5割強だったのが今年は90%以上にアップしたとのことです。

 麻浦大橋でのこのような対策に続いて漢江大橋でも同様のキャンペーンも始まり、俳優のハ・ジョンウ、ソウル大キム・ナンド教授、声楽家のチョ・スミ、漫画家のホ・ヨンマン等の著名人44人のメッセージが寄せられ、またここにも「生命の電話」が設置されました。

        
    【「私が応援します」と記されたハ・ジョンウからのメッセージ。】

 しかし、ここまでキャンペーンを展開しなければならないとは、それほど韓国内では自殺の問題が大きな課題になっているということですね。

 9月の聯合ニュースの記事によると、韓国の2011年の自殺者数は1万5681人。2008年から4年連続で増加しています。
 日本の場合、2012年の自殺者数は27858人。韓国の倍以上も多い数字ですが、自殺率は21.8人で、上掲の写真のキャプションにある通り韓国の自殺率の方が日本を上回って世界1位になっています。
 ウィキペディアの<国の自殺率順リスト>という項目によると、主な国々の自殺率は次の通りです。※(  )内の数字は調査年。
1位:韓国33.5(2010) 2位:リトアニア31.5(2009)  3位:カザフスタン26.9(2007) 4位:ベラルーシ25.3(2010)  5位:日本21.8(2012)  18位:フランス17.0(2006)  27位:中国13.9(1999)  41位:アメリカ11.1(2005)  44位:インド10.6(1998)  50位:ドイツ9.4(2007)  52位:イギリス9.2(2008)  68位:スペイン6.1(2007)  72位:イタリア5.2(2007)

 これを見ると、日本の自殺率が韓国より低いといっても世界の中では非常に高い数値であることがわかります。つまり、自殺が多いこと(とくに男性中高年層の自殺率が高いこと)は日韓共通の現代的課題といえます。

 近年(この約10年)の社会環境、とくに労働をめぐる状況の変化がまず理由の1つとして考えられるところですが・・・。
 一方、日本や韓国よりも人々の生活が苦しいと思われる国々でも自殺率ははるかに低い国はむしろふつうです。現実の社会状況だけでなく、信仰や思想的な背景、家族をはじめとする人間関係のあり方等々、いろんなことが関係しているようです。
コメント
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