学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

「公定力」盛衰記

2018-08-14 | 天皇生前退位

投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2018年 8月14日(火)11時15分26秒

前回投稿で「「公定力」は行政法の基礎中の基礎」と書きましたが、最近の教科書での扱いは、私などが勉強していたころとはずいぶん違っているようですね。
『「法の番人」内閣法制局の矜持─解釈改憲が許されない理由』(大月書店、2014)への疑問から、二年前に某大学図書館で行政法の教科書を読み比べてみたとき、東京大学教授・宇賀克也氏の『行政法概説Ⅰ【第3版】』(有斐閣、2009)の目次には「公定力」がなく、索引にも「公定力」が存在しないことに驚きました。
ただ、同書の本文を読むと、一箇所だけ「公定力」という表現が出てきます。(p314)

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第5部 第19章 行政行為
5 行政行為と取消訴訟の排他的管轄
(1)意義

 行政行為に瑕疵があり違法であるとして争う場合、行政事件訴訟法は、原則として、もっぱら取消訴訟のルートで争うべきとしている。これを取消訴訟の排他的管轄(「取消制度の排他性」)という。その結果、行政行為は、権限ある行政庁が職権で取り消すか、行政行為によって自己の権利利益を害された者が取消訴訟を提起して取り消すか、行政上の不服申し立てによって取り消さない限り、有効なものとして取り扱われることになる(このことを、行政行為に公定力があるということもある)。このことの意味をいくつかの具体例で考えることとしよう。
(例1)民間会社に勤務する私人Aが解雇された場合、解雇(雇用契約解除)の取消訴訟を提起するわけではなく、解雇が無効であることを前提として、従業員たる地位の確認を求める訴訟を提起するのが通常である。これに対して、公務員Bが免職処分を受けた場合、当該免職処分に対する取消訴訟を提起してこれを取り消すことなく、直ちに公務員としての地位確認請求をすることは原則としてできない。免職処分は、取消訴訟の排他的管轄に服する行政行為であるからである。したがって、Bはまず、免職処分の取消訴訟を提起して、当該処分の効力を否定しなければならない。【後略】
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ということで、「このことを、行政行為に公定力があるということもある」ですから、「公定力」概念ももはや風前の灯のようですね。
個人的な記憶をたどると、1981年だったか、私が聴講した塩野宏氏の講義では、田中二郎先生は実体法上の効力としての公定力について重厚に論じられておられるけれど、これは行政事件訴訟法における取消訴訟の排他的管轄の反映ですし、そもそも行政事件訴訟法を作ったのは田中二郎先生ですからねー、みたいな言い方をしていました。
だから宇賀克也氏の説明も特に斬新という訳ではないのですが、ただ、その時点では塩野氏もきちんとした教科書は書かれていなかったですし、公務員試験向けの通俗参考書などには、行政行為には「公定力」という私人の法律行為とは全く異なる特別な効力があるのじゃ、みたいな権威主義的な叙述が目立っていて、独学で行政法を勉強しようとする人にとっては分りにくいポイントだったようですね。
とまあ、こんな風に書くと、まるで私が勉強熱心な学生だったような感じになりますが、別に謙遜でも何でもなく、そんなことは全然ありませんでした。
塩野宏氏は極めて辛辣な冗談を次々に飛ばす名物教授で、そのマシンガントークを漫談でも聞くようなつもりで楽しんでいただけです。

「芦部さんは、荷造りの名手であった」(by 松尾浩也)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/ffcbf67b38914a43e848353a1ce7c8eb
塩野宏(1931生)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%A9%E9%87%8E%E5%AE%8F

ま、学問的には宇賀氏のような説明が正しいのでしょうが、素人を説得する際には「公定力」のような難しそうな言葉を使って押しまくる方が楽だな、と思ったことがあります。
私もきっと、権威主義的でイヤな奴だな、と思われていたことでせう。

除名決議について
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/be1234b96a2892533f99ee68d34b0255

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