学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学を研究しています。

「宗教の死、イデオロギーの誕生」

2016-03-05 | グローバル神道の夢物語
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 3月 5日(土)11時23分42秒

『新ヨーロッパ大全』(原題は L'Invention de l'Europe)の構成は、

序説 時間と空間
Ⅰ 人類学的基底─家族制度と農地制度
Ⅱ 宗教と近代性
Ⅲ 宗教の死、イデオロギーの誕生
Ⅳ イデオロギーの解体

となっていて、やっと第Ⅲ部 に入ったところなのですが、その冒頭は次のようになっています。(p249)

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 宗教の死によってイデオロギーの誕生が可能になる。人間は、消え失せた神の国のイメージの代わりに、直ちに新しい理想社会のイメージに飛びつく。一七八九年以降、ヨーロッパは相次いで押し寄せるイデオロギーの波に洗われることになる。フランス大革命、自由主義、社会民主主義、共産主義、ファシズム、民族社会主義……これらのイデオロギーの波は、時間と空間の中で脱キリスト教化の各段階に結びついている。社会的形而上学が宗教的形而上学に取って代り、地上の理想の幻影が天上の彼岸の幻影に取って代る。近代政治も伝統宗教と同様、人類学的決定因を逃れることはできない。かつては家族的諸価値が、各地で大いなる宗教的形而上学の構造を決定していた。永遠の来世における人間と神の関係が、自由主義的なものになるか権威主義的なものになるか、人間同士の関係が、平等主義的なものになるか不平等主義的なものになるかが、それで決まっていた。その同じ基本的な素材を、大いなる政治的形而上学─すなわちイデオロギーが手にとって、今度はこの地上に理想の都を建設しようとする。市民の国家─これが永遠者の代わりである─に対する関係は、自由主義的なものか権威主義的なものとなるだろう。市民同士の関係は、平等主義的なものか不平等主義的なものとなるだろう。
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こうした美しい表現ではないにしろ、前半部は政治学などでもよく言われていたことですが、エマニュエル・トッドの独創はそれを彼の言う「人類学的基底」に結びつけたところですね。
従って、「近代政治も伝統宗教と同様、人類学的決定因を逃れることはできない」以下については強い反発も当然に生じているはずです。
ただ、今のところ私はトッドの分析に強い共感を感じていて、それはやはりトッドが語るナチズム誕生のメカニズムが相当に説得的であることによるのですが、その点は後で触れたいと思います。
上記引用部分の少し後で、トッドは、

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家族的決定因の存在を知らずに、宗教の死とイデオロギーの誕生、そして宗教とイデオロギーの間に存在する構造の類似性に気付く観察者はだれでも、諸価値が宗教的な次元から政治的次元へと直接移動したという印象を持つだろう。そして、宗教的要素が政治的要素の形を決める、権威主義的な神が強い国家を産出し、自由主義的な神が議会主義を促進するのであると、考えてしまうだろう。しかしそこに観察された移動は実は錯覚であって、それは家族制度という根本的決定因子の恒常性のなせるわざに他ならない。とはいえ、ある任意の場所における政治的理想社会が、神の都が地上に降り来ったものという様相を呈するのは事実である。
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と述べていますが、私も一応は「宗教の死とイデオロギーの誕生、そして宗教とイデオロギーの間に存在する構造の類似性に気付く観察者」の一人であって、「諸価値が宗教的な次元から政治的次元へと直接移動したという印象」を持っていたのですが、『新ヨーロッパ大全』を読み終えるころには、それが「錯覚」であったかどうかが明確になりそうです。

>筆綾丸さん
チェス・将棋・囲碁の天才たちのひらめきの中に顕現していた神々のうち、チェスの神は既に死に、将棋の神は臨終を迎え、最後まで残った囲碁の神もどうやら黄昏を迎えつつあるようですね。

>速水融氏や鬼頭宏氏
ありがとうございます。
少し検索してみたところ、速水氏の『歴史人口学研究─新しい近世日本像』(藤原書店、2009)などは期待できそうですので、さっそく調べてみます。

※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

悲しき熱帯 2016/03/04(金) 14:36:31
小太郎さん
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E7%94%B0%E7%BF%94%E5%A4%AA
将棋では、若手のホープである千田翔太君などは、対人間の棋譜にはあまり関心がなく、対コンピュータソフトの棋譜の研究に没頭しているようです。人間よりコンピュータの方がすでに圧倒的に強いから、という実に合理的な思考の持ち主ですが、もしかすると、非合理的な思考というべきか。
どんなに強い人間でも、コンピュータに勝てないんじゃつまらないや、ということで、将棋はやがて滅びるかもしれないですね。

http://japanese.engadget.com/2016/03/01/alphago-deepzengo/
ドワンゴの川上量生会長が囲碁にも本腰を入れ始めたようですが、囲碁も同じ運命かもしれません。七冠王になるのではないか、と天才の呼び声の高い井山裕太氏もコンピュータソフトには歯が立たない、そんな時代もすぐ来るのでしょうね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%9F%E6%B0%B4%E8%9E%8D
よくわからないのですが、速水融氏や鬼頭宏氏の研究に、江戸期の人口動態のほか、識字率への言及があるかどうか。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AD%98%E5%AD%97%E7%8E%87%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%9B%BD%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88
ウィキの世界地図をみると、識字率の低い国々はアフリカ大陸に集中し、なんだか『悲しき熱帯』のようで、涙が出てきますね。
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