学問空間

『承久記』『五代帝王物語』『とはずがたり』『増鏡』『太平記』『梅松論』等を素材として中世史と中世文学の中間領域を研究。

「七十七銀行女川支店」との比較(その2)

2016-11-08 | 大川小学校
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年11月 8日(火)11時52分40秒

他の津波被災地と比較した場合、女川の特殊性は複数のRC(鉄筋コンクリート)造のビルが基礎から根こそぎ倒壊していた点で、これは陸前高田市・南三陸町など、女川同様の高い津波に襲われた地域でも見られない現象でした。
「女川交番」など、地中に打ち込んだ基礎部分の杭がむき出しになっていて、異様な光景でしたね。
検索してみたところ、『地震・防災 あなたとあなたの家族を守るために』サイト内の「女川港、女川町中心部」に倒壊ビルの写真が分かりやすく纏められています。
最初の写真の説明に「高台の女川町立病院駐車場より女川漁港、女川湾を望む」とありますが、この高台が「堀切山」です。

「女川港、女川町中心部」
http://www5d.biglobe.ne.jp/~kabataf/higasinihonn_daisinnsai/miyagi_onagawa_syasin.htm

津波によるRC造ビル倒壊は土木・建築関係者の間でも衝撃的だったようで、この現象の工学的説明は、例えば日経新聞の次の記事などが参考になります。

「大津波で鉄筋コンクリート造の建物が横転した理由」(日経新聞2012年1月18日)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1801T_Y2A110C1000000/

七十七銀行女川支店のビルは昭和48年(1973)建築だそうで、被災時には築38年の些か古めのビルでしたが、建物自体は非常に頑丈で津波に耐えて残りました。
さて、支店長が何故「堀切山」ではなく女川支店屋上を避難場所に選択したのかですが、裁判所が認定した当時の状況は次のようなものでした。
少し長めですが、正確を期すためにそのまま引用します。
(「裁判所」サイトのPDFではp32以下。)

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/990/083990_hanrei.pdf

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(7) 本件地震発生後の被告女川支店の状況(甲4,5,9,L証言,K証言)
ア 本件地震発生当時,被告女川支店のG支店長は,取引先のOを訪問中であったが,自動車で同支店に戻る途中の海沿いで引き潮になっていることや,大津波警報が発令されていることを知り,午後2時55分頃,同支店に戻った。
イ 本件地震発生時に被告女川支店にいた顧客は,G支店長が戻った頃には,いずれも自ら店外に出ていた。
ウ G支店長は,被告女川支店に自動車で戻った直後,大津波警報が出ていることを告げながら,行員らに対し,片付けは最小限にして避難するようにとの指示を強い口調でした。
エ また,G支店長は,亡H及びL行員に対し,被告女川支店入口(行員通用口を除く顧客用入口)の鍵を閉めること及び屋上の鍵を開けることを指示した。
 亡H及びL行員が,G支店長の指示に従い,被告女川支店入口(行員通用口を除く顧客用入口)の鍵を閉め,屋上の鍵を開けようとしたが,なかなか開かなかったことから,亡H,L行員及びG支店長の3人で屋上の扉を押して開けた。
 L行員らが屋上に出ると,屋内では聞こえなかったサイレンの音や「大津波警報が出ているので,高台に避難してください。」旨の防災行政無線の放送内容が聞こえた。
オ その後,G支店長が他の行員らを呼びに一旦2階へと戻ると,K(女性派遣スタッフ)が,G支店長に対し,「自宅にいる子どもが心配なので自宅に帰りたい。」旨申し出た。これに対し,G支店長は,「行きたいというなら止められないけど,潮が引いているので気を付けて行くように。」とKが自宅に戻ることを了解し,Kは被告女川支店を出て約320m離れた自動車駐車場に駐車してあった自家用自動車に乗って自宅へと戻った(甲5,甲45の1及び2,甲46)。
カ G支店長は,被告災害対策本部に対し,内線電話によって,大津波警報が出ているので,屋上へ避難する旨を報告した。
 そして,午後3時5分頃,K及び休暇中の次長を除く行員ら13名が,本件屋上に避難した。
-------

ここでいったん切ります。
「L行員」が唯一奇跡的に生存した人で、判決文ではもちろん本名ですが、「裁判所」サイトではプライバシーを考慮して関係者は全て仮名となっており、『判例時報』でも同様です。
また、『判例時報』では煩雑を避けるため「(甲5,甲45の1及び2,甲46)」といった証拠表示を省略しているのですが、「裁判所」サイトでは全部出ていて有難いですね。
午後2時46分の地震発生時、支店長は得意先回りのために外出していましたが、10分足らずで支店に戻り、その間に引き潮を自分の目でみています。
また、「七十七スタッフサービス株式会社」からの女性派遣スタッフ1人(K)が帰宅を希望したのに対し、支店長はそれを了解していますが、この点は地震発生後の労働関係の性質、安全配慮義務の内容を考える上でひとつのポイントになるのではないかと思います。
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