大福 りす の 隠れ家

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ハラカルラ 第15回

2023年12月01日 21時05分51秒 | 小説
『ハラカルラ 目次


『ハラカルラ』 第1回から第10回までの目次は以下の 『ハラカルラ』リンクページ からお願いいたします。


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ハラカルラ    第15回




「各門には各門の在り方がある、とな。 だが朱門はそれに納得がいかなかった。 矢島の何代も前から跡を継ぐ者を探しに出る度、後をつけ狙い横取りしようとした。 ああ、横取りなどと言う言い方は水無瀬君に悪いな」

「いいえ、大丈夫です」

それくらい構わない。 腹にパンチや膝まで入れられ、背中など長く痛みが残ったほどだ。 横取りなどと優しい言葉では済まないくらいである。

「そういうことがあって、跡を継ぐ者を探しに出る時には必ず村の者が同行していた」

「どうして矢島さんも他の人達も相手に顔が知れていたんですか?」

「村の者が面を着けているのを見たか?」

「はい」

長は見ていないだろうがプラスティックの面も見ている。

「村の者はみんな水の世界に入る時には面を付ける。 だが矢島的存在の者は村の者ではないので着けることは無い。 村の者もこっちで何もなければ面など着ける必要はないのだがな」

仲良くオテテを繋げる状態であれば、顔を隠す必要などないということ。

「あの、もしかして同行していたという時には、俺が攫われた時みたいなことがあったんでしょうか? 色んなものが飛び交って剣戟とかも聞こえてきてたんですけど」

「ああ、いつもそんな風だ。 命を落とす者が出ていないとはいえ、大怪我を負う者はいる。 向こうもそれなりの怪我人が出ているだろうに、いつまで経っても諦める様子がない」

ライが言っていた長い確執とはこのことだったのか。

「矢島さんはどうやって俺を探し出したんでしょうか? というか、何かがあったから俺に決めたんですよね?」

「それは矢島にしか分からんが・・・一つ言えることはある」

昔昔の兄妹の両親が跡を継ぐ者を探し出したと同じだが、と長が話し出す。

二十年に一度、異変が起こるという。 その異変を感じ、それからまた二十年後に異変が起こる。 その時に新たに異変を感じる者が居るが、二十年前に異変を感じた者はその異変を感じない。 だが開眼がある。 開眼とは水の世界の様子が見えだすということ。 水の世界が見えだすと段々と様子が変わってくる。

「今の時代は情報過多でさほど驚きもしないだろうが、その昔は突然に見える水の世界に気が触れる者もいた。 兄妹の両親はその様な者を探して水の世界に連れて行き落ち着かせた。 何人もそうしている内に、その中に跡を継げる者が居たということだ。 多分、矢島たち跡を継いだ者はそういう人間を肌で感じるというか、何かを感じるのだろうな」

「俺は異変なんて感じなかったんですけど話としては分かりました。 でも今の話からするとおかしな点が出てきます。 昔昔の兄妹はまだ幼かったんですよね? 二十年に一度なら、零才の時に異変を感じたとしても二十歳になっていないとおかしくはないですか?」

「切っ掛けとしては、水の世界に迷い入ったということなんだが、そこで開眼が促されたのかもしれん。 村でも幼い時から水の世界に連れては行くが、それで開眼するようなことは無いがな。 兄妹は特別だったんだろう」

特別な兄妹が偶然にも迷い入った。 そんな偶然があるのだろうか。 それともそれは因縁だったのだろうか。 そしてその結果が死。 ましてや納得のいく死ではなかった。
結果も含み因縁だとすれば迎えたくない宿命だ。

「そうですか。 昔昔の兄妹のことは今となって詳しいことは誰にも分かりませんもんね」

「そうだな、特別と考える他何とも考えようがない」

水無瀬が頷いてみせ話を元に戻す。

「青と赤そしてここの黒の性格は分かりました。 白って言うのはどういう感じなんですか?」

(あ、俺、何を踏み込んだことを訊いてるんだ。 そんなことはどうでもいいじゃないか。 ・・・でも気になる)

長が首を振りながら応える。

「全く分からん。 さっきも言ったように全く姿を現さん。 何か事が起きたこともない」

「ということは、そこに・・・芯の奥にも水の世界にも来ていないってことですか?」

「すれ違ってしまっているのか実際来ていないのか全く分からん。 水無瀬君も見ただろう、あの広い光景を。 誰が何処に居るかは特定できない。 問題があれば水がおかしな流れをして場所を特定できるがな、そんなこともなければ何も分からない」

どこまでも続くあの世界。 一人の人を探そうと思えば、それこそ大海で一粒の砂を探すようなものである。

「大海の一粟(たいかいのいちぞく)・・・」

「そんなところだな。 だが存在はする。 絶えてはいない」

それがどこからくる核心かは水無瀬の知るところではないが、長には言い切れる何かがあるのだろう。

「一度見てみるか?」

「え?」

「単に見えるだけでなく、入って見てみるか?」

「・・・」

上手く誘導されているような気がする。

「無理にとは言わんがな」

「あ、いえ・・・」

俺はどうして黙ってしまったんだ。 どうして断らない。

「まぁ、ここに居れば安心だ、あの者たちは来ないからな。 焦って考えることも無いだろう。 いや決して引き留めているわけではないからな、誤解のないように。 どうだ? 一晩でも泊まっていかんか?」

「え?」

「大学には当分行かんでいいと聞いている、バイトも休んでるんだろう?」

「あ、はい」

「それとも何か予定があったか? そうであれば、すぐにでも送って行かせるが?」

「いいえ、特には」

(おい俺! 何を言っている! どうして嘘でも予定があると言わない! それにこれは長の大きな駆け引きかもしれないだろ、しっかりしろよ俺!)

勢いよく木戸が開いた。
首を巡らせると小さなお尻が二つ並んで突き出されている。

「母ちゃん巻けた?」

「多分。 父ちゃんも巻けた?」

「きっと」

何やら二人でコソコソと話し、そっと木戸を閉めていく。

「煉炭、何をしてる」

突き出されていた小さなお尻二つが引っ込み、ついでに背筋と腕がピンと伸びる。

(レンタン?)

短髪の可愛らしい二つの顔がこちらを向いた。

「わわわ、お」
「わわわ、さ」

「え?」

同じ顔?

「えーっと、えーっと」

「うーんと・・・そうだ! 繁蔵爺(しげぞうじい)に褒められた!」

「そうだ! 煉と炭が褒められた!」

「炭も煉もいいことをした!」

(レントタン? タンモレン? ああ、そうか、この二人の名前がレンとタンなのか。 てっきりレンタンという変わった名前だと思っていたが、そうではなかったのか)

ワハハおじさんは 『本人たちに言わせる』 と言っていた。 『たち』 と。 だが水無瀬はその時 『ケジメってもんがある』 と言ったワハハおじさんの言葉に気がいき 『たち』 と言ったことに気付いていなかった。

「そうらしいな、聞いた聞いた。 でかしたな」

「わーい、長にも褒めてもらった」

「褒めてもらった、褒めてもらった」

二人が両腕を上げてくるくる回っている。 かなり嬉しいらしい。

「これこれ、客人の前だ、挨拶は?」

「あ」 二人が声を合わせる。
その二人が駆け寄って来て板間に上がると、水無瀬の横にちょこりんと正座をした。

「こっちは煉」

「こっちは炭」

互いに互いを指さして紹介してくるが、どうして自己紹介ではなく、もう一人紹介になるのか。

「こんにちわー」 二人がまたもや声を合わせる。
だが可愛いではないか。

「こんにちは。 俺は水無―――」

「わ! 水無瀬?」

「きっとそうだ、水無瀬の声だ!」

「え? 声?」

「水無瀬だろ?」

「あ、うん」

「わーい、水無瀬だ水無瀬だ」

立ち上がるとまた手を上げてくるくる回り出す。 もうどっちがどっちか分からなくなった。

「これ、水無瀬さんと言わんか」

(いや、どちらかと言えば、お兄さん、若しくはお兄ちゃんでお願いします)

くるくる回っていた煉炭がピタリと止まると、一人のポケットから小さな袋を出し、二人で顔を見合わせてにっこりとする。
水無瀬の両横にくっつくように座り込むと袋を水無瀬に差し出す。

「え? なに?」

「見てみて」

「知ってるもの」

差し出された小さな袋は、ジップ付きのキャラクターが描かれたビニール袋だった。 キャラクターの描かれていない透き通った隙間からは白い色をした何かが見える。
ジップを開けて袋を逆さにして広げた掌に落とす。 見慣れたものが掌にコロンと転がってきた。

「あ・・・これ」

あのUSBスティックではないのか? ライが盗聴器と言っていた。

「部屋から回収してきてあげた」

「盗み聞きされるの嫌だろ?」

ということは、この二人が部屋に忍び込んだということか? この小っちゃい二人が?

「いいことしてもらったら、ありがとうって言わなきゃいけない」

「ありがとうは大切だって、父ちゃんも母ちゃんもいつも言ってる」

ついさっきまでは黙って聞いていた長だが、とうとう口を挟む。 長は繁蔵爺とは違う。

「これ、煉炭。 水無瀬君の部屋に忍び込んだそうだな」

「あ・・・」 二人が声を合わせ、しょんぼりと顔を下げる。

「いいことをしてもらったかどうかは、水無瀬君の決めること。 強要するものではない。 それに煉炭には謝らなくてはならないことがあるだろう。 煉炭のしたことは悪いことだ。 分かるな?」

ワハハおじさんが言ってたのがこの事かと、水無瀬が理解した。

父ちゃんに絞られても母ちゃんに怒られても、なんとか逃げるつもりだった二人だが、長に言われては逃げることも誤魔化すことも出来ない。
下を向いたまま「ごめんなさい」 と二人が声を合わせる。
長が頷いて水無瀬を見る。

「水無瀬君、悪かったな、勝手に忍び込んだりして」

「あ、いえ・・・大丈夫です」

最近の若者はよくこの言葉を使うが、いったい何が大丈夫なのだろうか。

水無瀬が大丈夫と言ったのに二人の顔は下がったままである。
もっと他の言い方をしなくては幼い子には通じないのだろうかと、言葉を模索する。

「えーっと、その、大丈夫だから・・・」

また言ってしまった。

「あ、じゃなくて・・・うん、嫌だよね、勝手に話を聞かれるなんて。 探してくれてありがとう」

二人の顔がパッと上がる。

「いいことした?」

「炭も煉も水無瀬が嬉しいことした?」

「あ、うん。 あの、出来ればお兄ちゃ―――」

「わーい、わーい、水無瀬がありがとうって言ったー」

「炭も煉もいい子だー」

さっきまでの殊勝な姿は何処へやら、立ち上がりまたもや両手を振りながら二人でくるくると回っている。
その二人の声を聞きつけたのだろう、木戸がまたもや開けられた。

「お前ら!」

ワハハおじさんが仁王立ちになっている。

「うわ、父ちゃん」

「あんたら!」

「わわ、母ちゃん」

煉炭の両親が何を言おうとしているのかを、もう長は聞いて知っている。

「これ、客人の前だ、そう声を荒げるな。 それと煉炭がいま水無瀬君に謝った。 わしがしっかりと聞いた」

「あ・・・それなら」

そう言って近づいてくると、土間の上に立ったまま「うちの二人が勝手なことをして済まなかった」 と頭を下げ、その後ろでは母ちゃんも同じように頭を下げている。

「あ、そんな。 いいんです頭を上げてください。 それに俺は盗聴されてるなんて気も付かなかったから、あのままで何もかも人に聞かれてたかと思うと気持ちのいい話ではなかったので」

「そう言ってくれるとありがたい」

やっと頭が上がる。 そして視線を煉炭に転じる。

「煉炭、水無瀬君に謝ったのはそれで良しとする。 がっ! ケジメはつけるからな。 来い」

「えー!!」 二人が声を合わせ、そして水無瀬を見る。

「ピーピー見たくない?」

「ピーピーが見つけてくれたんだよ?」

ピーピーとは・・・どんな生き物だ? とは思ったが、見つけてくれたということは、盗聴器のことだろう。 興味がわかないわけではない。

「あー・・・」

「見たいよね?」

「今すぐ見たいよね?」

「あ、じゃあ、うん」

「長! 水無瀬を連れて行ってもいい?」

「お前ら! 父ちゃんから逃げようとしてるだろ!」

「まぁまぁ、そう目くじらを立てるな。 一応、わしからそれなりに叱っておいた。 今回はそれでいいだろう」

「ですが長、指示もないことを勝手にした上に人の家に忍び込むなどと。 父親としてしっかりと教えなければならんことです」

「まあそうだが、今回は煉炭のお蔭で分かったこともあった。 それに免じてはやってくれないか」

「長がそう仰るのなら・・・」

長に合わせていた目を煉炭に転じる。

「煉炭」

「ひ~・・・」
「はぃぃぃ・・・」

何故か両横から水無瀬の腕にしがみ付いている。

「今回は長の口添えに免じてこれ以上言わんが、次に指示以外のことをしたり人様の家に勝手に入ったりしたら許さんからな」

「はぃぃぃ」 と二人が半泣きの顔で答える。

「邪魔をしました」 そう言い残すとワハハおじさん夫婦が出ていった。

半泣きの顔だった煉炭が木戸が閉められたと同時に水無瀬を仰ぎ見る。

「んじゃ、ピーピー見せてあげる」

「ピーピー可愛いよ」

いや、君らの方が可愛いと思う、とは思うがこの変貌のしかた。 性格はかなり怖いようである。
煉炭が両方から腕を引っ張る。

「ちょ、ちょっと待って」

まるで保父さんにでもなったような気分である。 煉炭から目を外すと長を見た。

「あの、お話しは・・・」

「粗方は話した。 話を聞いて水無瀬君がどう判断するかは水無瀬君自身に任せる。 今この場でとは言わんが、話を聞いた上での返事を聞かせて欲しい」

「・・・はい、分りました」

聞いた上で断ります、とは言わなかった、今はまだ言えなかった。

水無瀬が出て行くと長が疲れたような顔を見せ、少し遅れてワハハおじさんが戻って来た。

「長・・・」

「ああ、こういうことは疲れる」

煉炭に引っ張られやって来たのは小さな物置小屋のようなところであった。 煉か炭かどちらか分からないが木戸を開け、もう一人が「入る入る」 と言いながら水無瀬の尻を押す。
中に入ってみると四方に棚が作られそこに小さな部品が置かれている。 部屋の中心には長方形の机が置かれ椅子が二つ並んで置かれている。

「ここは?」

「煉と炭の実験室」

「じ、実験?!」

「違うよ、炭。 工作室って言うようにって、母ちゃんが言ってたの忘れた?」

ということは今話しているのが煉ということになるが、またくるくる回られるとすぐに分からなくなる。

「あ、しまった。 そうだった。 工作室」

工作室でも実験室でもいいが、ここに置かれている物はこんな小さな子が扱うような物ではない。

「これがピーピー」

水無瀬が四方を見ていると、いつの間にか一人の掌に小さな機械が載って差し出されてきた。

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