チロルの古都

 
 エッツタールの渓谷を通って、インスブルック(Innsbruck)へと向かう。車窓には深い谷間の村々が次々と現われる。こういう小さな村がいいよね。
 一方、到着したインスブルックはかなりの都会。こうした都会の駅では相棒、ピリピリして私を急き立てる。

 インフォメーションでインスブルック・カードを購入。カードが使えないのでキャッシュを出すと、それを手に取った受付の男性、大真面目な顔をして、
「メイド・イン・ジャパンの札ですな。新品です」
「は?」
 ピリピリしていた相棒、これがヤパーニッシュ(=日本人)相手の、男性のお決まりのジョークだと気づく余裕もなく、まんまとからかわれたまま、大真面目に紙幣を確かめ直す。

 駅前は雑然としていて、あちこちにうるさい、不良っぽい若者たちを見かける。オーストリアってやっぱり、貴族的だけれども俗化されている。
 これで、すぐ近くにインスブルックを囲む、雪を頂いたオーストリア・アルプスが見えるのだからたまらない。山を眼の前にした下界で世故に煩わされると、極端に短気になるというのが、相棒の経験則。

 案の定、ユースホステルへ向かうべく地図を確認しているところへ、折からの突風にその地図をピュウと持っていかれた相棒。咄嗟に、風にだか地図だかに向かって、「馬鹿野郎!」と叫んだ。
「何怒ってんのよ」と呆れた、戒めの一言を私が口にした途端、あーあ、我が相棒はそれきり、ちょんと黙り込み、内に籠ってしまった。イン川のほとりまで来て、とうとう立ち往生。

 自然までもが、相棒の損なわれた機嫌をますます煽って、空は突き放したように暗く曇り、雪の山々は雲のなかへと意地悪く姿を隠す。ポツリ、ポツリと雨粒までが落ちてくる。
 なんだか心にも暗雲が立ち込めてくる。出だし最悪のインスブルック。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、イン川の流れ。

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     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
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