ビュフェの心象

 
 
 恒例の美術館めぐりの旅行に行ってきた。青春18切符を使って、在来線をチンタラと乗り継いで、美術館をハシゴする。
 最初は、静岡の三島にあるビュフェ美術館。この美術館は富士山麓のクレマチスの丘にあって、涼しいし、緑が多くていい感じ。 
 
 ベルナール・ビュフェ(Bernard Buffet)と言うと、私が最初に名前を憶えた画家。子供の頃、手塚漫画で育った私は、漫画のなかで、恋する青年が晴れ渡った空を形容して、「ビュフェのような青い空!」と叫んだのが印象に残っていて、以来、ビュフェという画家を一目見たいと、いろいろと探したものだった。
 学生のときに初めて観たビュフェのピエロは、イデオロギーの権化ピエーロ氏の姿にそっくりだった。
 
 ビュフェは第二次大戦後の具象画を代表する画家の一人。具象画と言っても、その絵はかなり様式化されている。早くから国際的な名声を得、ピカソより一世代半若く、ごく最近まで生きていた。
 簡素な構図と、針金のようなシャープな線描による、鋭角的なフォルム。黒い輪郭線に縁取られた、厳選された色数の、澄んだ色彩。角張った人物たちは、ひょろりと細長く、老けていて、不安げで苦しげな表情をしている。逆に風景には、人物は一切現れない。画面は硬質で、厳粛なムードが漂っている。
 加えて、現代人に見立てたキリストの磔刑、皮をはがれた人間や骨と内臓だけの人間、狂人や道化、といったモティーフを取り上げていることで、画面が醸す不安な、寒々しい心象が増幅している。

 ピカソの画風がコロコロと変化したのに比べると、ビュフェの画風は基本的に、最初期の頃から大きな変化は見られない。マンネリと受け取れなくもないけれど、それでも退屈はしなかった。
 ただ色彩は、モノトーン調だったところが、アナベル夫人の存在を機に、より豊かに、明るく変化してゆく。ルドンもそうだったが、愛する人の存在は、孤独な画家にとって、色味を増す力を持つのかも知れない。

 抽象画を、一考に値しない、と言ってのけ、20世紀最大の巨匠と誉れの高いピカソを、ボロクソにコケにするビュフェが、私には好もしかった。
 
 夕方、沼津の千本松浜に寄った。打ち上げられた木々が石浜に、ところどころ積み藁のように積まれていて、結構絵になった。

 画像は、ビュフェ「軍服のピエロ」。
  ベルナール・ビュフェ(Bernard Buffet, 1928-1999, French)
 他、左から、
  「ワイングラスを持つ女」
  「死」
  「鷲」
  「小さな梟」
  「自画像」

     Bear's Paw -絵画うんぬん-
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