ギリシャ神話あれこれ:オデュッセウス帰還-カリュブディスとスキュラ(続)

 
 他方、黒雲に届かんばかりに高く聳え立つ、磨かれたようにつるつると滑らかな大岩のほうには、中腹の洞窟に怪物スキュラが棲む。

 スキュラは仔犬のような声で吼えるが、腰から下に12本の長い脚と6つの長い犬の首を持つ、正真正銘の怪物で、それぞれの首には3列に並ぶ鋭い歯の生えた巨大な口がある。もとは美しいニンフだったのが、こんなとんでもない異形の姿になったのも、オデュッセウスに何くれと世話をした、あの魔女キルケのせい。
 スキュラは、船が対岸のカリュブディスを避けて近くを通るのを待ち構えて、船が通るが最後、間違いなくきっかり6人の船人を、12本の脚で掴み取って貪り食らう。

 さて、オデュッセウスはキルケから、スキュラの岩のそばを通るように言われていた。海神ポセイドンでさえ力及ばないカリュブディスの大渦に巻かれれば、船ごと全滅は必至なのだから、6人の部下の犠牲を払ってでも、そちらを通らなければならない、と。

 なので、オデュッセウスは航路をスキュラの岩ぎりぎりに寄せ、あとはただひたすら全力で櫂を漕ぐよう命じる。スキュラの存在は教えずに……
 それでもオデュッセウスは、もしかすればスキュラを倒せるかもしれない、と武具を纏い2本の槍を手に船首に立つ。船は岩の狭間を慎重に進み、一同が、ほんの鼻先の向こう岸で、カリュブディスがゴオーッと海水を呑み込んでは、泡立つ飛沫を岩頂まで吐き出す、その凄絶なさまに眼を奪われているときだった。

 電光石火、6つの長い首が伸びてきて、あっと思う間もなく、6人の部下たちをくわえ去る。彼らはオデュッセウスの名を呼びながら彼に手を伸ばし、無惨に貪り食われていった。
 南無。

 To be continued...

 画像は、モロー「オデュッセウスとセイレン」。
  ギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1898, French)

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