魔の国境越え、再び(続々々々)

 
 再び歩いて駅まで戻る。何かドリンクを買い足しておきたかったけれど、日曜日なので、カフェ以外は店が閉まっている。

 さっき、トリエステに来るときに買ったバスの切符で、ムッジャまで行けるという。
「儲けッ! ついに運が向いてきたよ。きっと無事にスロヴェニアに着くよ!」
 相棒が励ましにかかるけれど、私は不安でいっぱい。フィラッハのときとは訳が違う。あのときは心積もりがあったし、水分があったし、国境を越えたあとはもう寝るだけの予定だった。けれども今日は、午後にピラン観光が待っている。

 ローカルバスに乗り込んでムッジャへと向かう。バスには次から次から、地元の人が乗ってくる。みんな揃って真夏の格好。
 満員のバスのなか、ワンピースを着たよぼよぼのお婆さんが、私の眼の前で立っている。席を替わりましょうか、と合図してみると、いいの、まだまだ元気だから、と断られた。
 おかげで私は助かった。実はこの暑さのなか、もうかなりバテててたんだ。

 あんまり人がわんさかバスに乗ってくるのを見て、相棒、浅薄な期待のあぶくで私を慰めようとする。
「もしかしたらみんな、スロヴェニアに行くのかも知れないよ。地元の人はさ、普段からごく普通に、ムッジャとスロヴェニアを行き来してるんだよ。今日だって、これからみんなで、ぞろぞろ歩いて国境を……」
 ……そんなわけ、ないじゃん。

 ムッジャ(Muggia)はトリエステ南端の古い港町。一目で私の気に入った。
 旧市街もあるし古城もある。交錯して海へと抜ける狭い路地。海岸の遊歩道。入り江の舟溜まり。ああ、私こんな小さな古い港町、大好き! これが遊びに来たんだったら、きっと最高だったのに。
 この日は蚤の市で、みんな、それを目当てに訪れたのらしかった。

 To be continued...

 画像は、ムッジャ、旧市街。

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