ヘンデクとセブランの対話 2

 
「やあ、ヘンデク。お正月はどうだった?」
「元日は家族で、恒例の麻雀だよ」
「楽しかった?」
「みんな、いわゆる普通に知的で真面目で悪意のない人々でさえ、環境問題のことを分かっていないと分かったよ」
「そうなの?」
「麻雀しながらペチャクチャ喋ったんだけど、問題の本質や解決の方向性を分かっていないし、分かっていないことを自覚してもいるんだよね」
「それで?」
「真面目だから、知る機会があれば、知ろうとするよ」
「じゃあ、教えてあげればいいじゃない」
「もちろん、教えておいたけどね」
「それで?」
「真面目だから、問題の中身を知った上では、それを理解しようとするよ」
「じゃあ、いいじゃない」
「まあね。でも、正しいことを言える人間が周囲に存在しないもんだから、普通の人々は、解答を保留して見守っているのが実情なんだよ。地球環境の問題は自然科学の知識だけではなく、社会科学の分野に属する、市場、資本、国家、世界社会、そういったものすべてを理解しなければ解けない性格の問題だからね。もちろん、人間の叡知や営為、抑圧などについての一般的な理解も、なくちゃならないしね。まさに人類の理性に課された試練だね」
「じゃあ、同じことを、世界の普通の人々みんなにレクチャーしてあげたらいいじゃない」
「そうするのが一番、世界のために資することになるのかもねえ」
「それ、ヘンデクが適任だと思うよ」
「どうして?」
「微積分の問題があったとするでしょ。微積分を知らない人間が百人集まっても、百年かかっても解くことはできないし、百人が満場一致で合意して答えを出しても、その答えに意味はないけれど、微積分を知っている人間なら、たった一人で、あっという間にそれを解いて、正しい答えを出してしまうでしょう。それに、問題を解く力を持つ同じ人間なら、賢ければ賢いほど、予め問題を解きほぐして、一番解きやすいようにしてしまってから、一気にサラサラと解くものでしょう」
「うん」
「問題を解く力があって、解き方も知っているんだから、ヘンデクがやれば済む話だよ」
「なるほどね。……でも、その理由ならセブランがやってもいいんじゃないかい? 僕一人にやらせるつもりじゃないだろうね」

 画像は、ヨナス・リー「黄金の道」。
  ヨナス・リー(Jonas Lie, 1880-1940, Norwegian)  

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