ヴィトゲンシュタイン

 
 新しいPCになって、動画を観ることができるようになった。こうなると相棒、無料配信されている映画(特に、相棒の好きなヨーロッパ映画)を観ろ、観ろと、うるさくせっつく。
 この前観たのが、「ヴィトゲンシュタイン(Wittgenstein)」(監督:デレク・ジャーマン、出演:クランシー・チャセー、カール・ジョンソン、マイケル・ガウ、ジョン・クェンティン、ネイビル・シャバン、他)。

 ヴィトゲンシュタインって誰? と訊くと、
「知らないの? 20世紀最大の哲学者だよ。哲学がヘーゲルやマルクスで終わったと思ってるんじゃないだろうね。教養レベルなんだから、観といたら?」……

 物語は、少年ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインを語り部として、ときに、彼の空想であるミスター・グリーン(緑の火星人)との対話を挟んで、進む。
 暗幕を背景とした、寸劇のような展開。退屈に見えなくもない、シュールな映像美。

 ヴィトゲンシュタインの父はウィーンの鉄鋼王で、彼は9人兄弟姉妹の末っ子として誕生。裕福で知的な家庭に育ち、ヴィトゲンシュタイン家と交流のあった文化人らは錚々たる面々。
 同じ学校の生徒にヒトラーがいたとか、3人の兄たちはいずれも自殺したとか、残る1人の兄パウルは有名な片腕のピアニストで、彼のためにラヴェルなど著名な作曲家らが、左腕だけで演奏できる曲を作曲したとか、とにかくエピソードには事欠かない。

 ケンブリッジ大学では、バートランド・ラッセルやケインズらにすら、ついていけない天才・変人ぶりを発揮。ノルウェーの田舎に隠遁し、死と隣り合わせの霊感を求めて第一次対戦に従軍。全財産を寄付したため自費出版もならず、田舎での教師を志すも子供らの無知に憤慨して体罰を与えて放逐され、今度は肉体労働を求めてソ連へ……等々、やはりエピソードには事欠かない。
 ソ連官僚を前に、気が狂うのでヘーゲルは読まない、トロツキーのほうが面白い、と言ってのけるのには、笑った。

 が、同性愛はともかく、生涯を通じての疎外感や自殺願望、生活環境の転換や自殺への突飛な決意、反論されればすぐに怒鳴り、かと思うと落胆して自信を喪失し塞ぎ込む、という、この特異な人格。
 なんか、天才と言うより、ボーダー(BPD)みたい。教養はあっても自由人なところがないし、思想や哲学の内容も、あまり科学的には感じられなかった。
 でも相棒によれば、ヨーロッパでは持てはやされている哲学者なのだという。

 後で知ったのだが、脚本が、あのイデオロギー論を書いたイーグルトンだった。だから多分、ヴィトゲンシュタインの思想や哲学(や人柄)のエッセンスは、きちんと入っていたのだろう。
 が、言語哲学なんて勉強する気になれない。学生の頃に知らないでいて、よかったな。

 画像は、クリムト「マルガレーテ・ストンボロ=ヴィトゲンシュタインの肖像」。
  グスタフ・クリムト(Gustav Klimt, 1862-1918, Austrian)
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