素人投資家の像(続)

 
 父と母は東京で出会い、どこでどう縁があったのか知らないが、結婚して京都に移り住んだ。京都と言えば文化の古都、と思い込んでいた母は、京都人の持つ、文化と言うよりは因習ずくめの、前近代的な感性に、かつてないカルチャー・ショックを受けた。
 落ち着いたらこちらで自分の美容院を持とう、と考えていた母は、腹黒い京都人を接客するのを俄かに嫌忌し、腕を持ち腐らせたまま、専業主婦の道を選んだ。

 先述のごとく、甲斐性ない父のせいで、家はビンボー。が、美容以外の仕事などするものか、という強い自負のあった母は、パート労働に出ようなどとは、これっぽっちも考えない。
 で、実業家に諭されて始めた株式投資で、父の安月給を補った。

 無学な母のこと、その投資パフォーマンスは単純なもの。リスクの少ない銘柄を、安いところで買って、高くなったら売る。指値なし。信用取引も一切なし。プラス分は生活費に回すから、資本金自体はほとんど増えないまま。
 それでも、子供3人を大学院まで出し、家をリフォームし、ちょこまかと海外旅行に行くのをまかなう程度には、コンスタントに利益を出していた。母に言わせれば、
「だって、日本経済全体が上昇してた時代なんだから、私みたいなバカでも損は出せっこなかったのよ」

 私も子供の頃、本屋まで四季報を買いにやらされた。それには企業ごとに男性の顔が付いていた。業績や財務、利回りなどに合わせて、眉毛が太く吊り上がったり細く下がったり、頬がふっくらしたり痩けたり、髪の毛が濃くなったり薄くなったり。その顔を見ると、一目で優良企業が分かるというわけ。
「恰幅のいい顔探してちょうだい」
 こう言われて、私もきりりとした顔の企業を探した憶えがある。

 To be continued...

 画像は、ラーション「新聞を読む婦人」。
  カール・ラーション(Carl Larsson, 1853-1919, Swedish)

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