トーテムポールを描く画家

 

 エミリー・カー(Emily Carr)と言えば、カナダで最も有名な画家の一人だけれど、カナダ以外じゃさほど有名ではなさそう。
 カナダの文化って、そういうところがある。絵画も音楽も文学も、カナダと聞いてすぐに思い浮かぶのは、「赤毛のアン」くらい。……ま、それは良しとしよう。

 私は別に、エミリー・カーの絵を好きというわけではない。同じ表現主義絵画と言っても、ヨーロッパのそれに比べると、カーの絵はどこか幼稚なところがある。
 が、結局、絵とは理屈ではないのだ、と、カーのような絵を観ると実感する。

 カーはバンクーバー島のビクトリアに生まれ、生涯、故郷ブリティッシュ・コロンビアの沿岸からインスピレーションを得て、ブリティッシュ・コロンビアの風景を描いた。カーの描くカナダは、カナダと聞いて私が思い浮かべるイメージではない。
 カーがモティーフとしたのは、温帯雨林など、ブリティッシュ・コロンビアの独特の自然と、そこにひそむカナダ先住民の文化遺物。特にトーテムポールをわんさと描いている。トーテムポールって、面白いもんね。
 粗い筆致とフォーヴの色彩が、カナダ西海岸の広大な自然や、モティーフの原始宗教性と相俟って、単純で拙げな、精神性あふれる画面を作り出している。

 ブリティッシュ・コロンビア沿岸の村々を訪れ、先住民の主題をスケッチしてまわったカーには、失われてゆく先住民遺跡を描き留めようという、使命感のようなものが、あったのかも知れない。
 彼女がパリに渡り、フォーヴの大胆鮮明な色使いに接したのは、40歳になる直前。彼女は、自分をとらえて放さない故郷の主題と、パリで出会った色彩とに、あの主題にしてこの色彩あり、なんてふうに思ったのかも。
 
 やる気と勢いとに乗って、多分、自信と自負もあったのだろう、自分の絵を地元の美術館などに猛烈に売り込んだけれど、見事失敗。しばらくは絵筆を取らず、収入を補うために、果樹園を作ったり犬を飼育したり、焼物や敷物に先住民文化っぽい装飾などを旅行者向けに施したりして、生活していたのだとか。……そりゃ、40代半ばで失敗したら、がっくりくるもんなんだろうな。でも、こんなふうにして生活できるところが、カナダらしい。
 でもまあ、徐々に認められて、今では、カナダの画家グループ、「グループ・オブ・セブン」と並ぶ、カナダの代表的画家と数えられている。

 カーのように、大いなる田舎で黙々と絵を描くのもいいかも知れない、と思う今日この頃。

 画像は、カー「ブランデン港のトーテムポール」。
  エミリー・カー(Emily Carr, 1871-1945, Canadian)
 他、左から、
  「インディアンの教会」
  「ヒマラヤ杉の聖域」
  「猫の村のズォヌクワァ」
  「物語のズォヌクワァ」
  「材木としては嘲られている、空の愛児」

     Bear's Paw -絵画うんぬん-
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