元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「スルース」

2008-05-14 06:59:32 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Sleuth)これはダメだ。72年に製作されたアンソニー・シェーファーの戯曲の最初の映画化作品は観ておらず、この新作がそれとどう違っているのかは分からないが、とにかくヘタな映画である。

 世捨て人みたいな生活を送る老推理作家と、彼の豪邸にやってきた作家の妻と不倫中の売れない若手役者との虚々実々の駆け引きを3つのパートに分けて描く・・・・と書けば何やら面白そうだが、まず作家が若造俳優に提示する“ある計画”のお粗末さに脱力する。

 相手は自分に敵意を持っていることはミエミエのはずなのに、こういう提案を二つ返事で引き受ける役者のアホさ加減に辟易していると、その計画を実行中にも疑い一つ抱かずにまんまと罠にはまってゆくプロセスには失笑してしまった。第二部の、今度は若手俳優が作家をハメるくだりも、アッという間に底が割れるネタと段取りの拙さに再び失笑。しかも“あり得ないプロット”も挿入されてヴォルテージはさらに低下。さらに第三部では気色の悪い同性愛的ドラマに移行するが、これがまた必然性のまったくない猿芝居だ。ラストなんか作劇を途中で取りやめたとしか思えない醜態。

 前回の映画化で若手役者を演じたマイケル・ケインが作家に扮し、ジュード・ロウが俳優役。出演者はこの二人しかいないため、キャストの責任の重さは推して知るべしだが、逆に言えば演出側がちゃんと手綱を締めていないと、いくらでもオーバーアクトに走る可能性もあるということだ。この点、監督のケネス・ブラナーは失格。出演者に野放図に大仰な芝居をやらせている。

 ブラナーは舞台出身だが、ここでは悪い意味での“演劇臭さ”が充満。いたずらに映像空間が狭いのも気になるが、最悪なのは舞台セットだ。やたら凝ったハイテク仕立ての作家宅がこれ見よがしの仕掛けと共に紹介されるが、そのワザとらしさといったら、見ていて赤面してしまう。こんなものがスクリーン映えすると思っているのならば、作者の感覚は相当古いと言わざるを得ない。上映時間が1時間半と短いのが唯一の救いだ。

 ブラナーはシェークスピア劇の全作を映画化すると公言していなかったっけ。まだ数本しか映画にしていないし、早くしないと間に合わないと思う。こんな冗談みたいな仕事にウツツを抜かしていないで、とっとと「マクベス」や「リア王」なんかを手掛けるべきだと思う。
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