元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「少年と自転車」

2012-05-05 06:44:36 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Le Gamin au velo)ジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟監督作としては「息子のまなざし」に次ぐ出来映えだと思う。「ロゼッタ」や「ロルナの祈り」といった少女を主人公とした作品より、本作のように少年を題材にした映画の方が手慣れた感じを受ける。作者の幼い頃の屈託を重ね合わせる対象としては、やはり同性の方が扱いやすいのかもしれない。

 12歳のシリルは児童養護施設で暮らしている。母親はおらず、父親は彼を施設に預けたまま行方が分からない。係員の目を盗んでかつて父と暮らしていた団地へと向かうが、すでに引っ越した後だった。追いかけてきた学校の先生から逃れようとして入った診療所で、彼は偶然美容師のサマンサにしがみつく。後日彼女はシリルの“週末限定の里親”になることを施設に申し出る。一緒に過ごしながら、父親の行方を捜そうというのだ。

 シリルは我が儘で突飛な行動に出ることがあり、周囲の大人を困らせる。しかし、それは彼だけの責任ではない。一番悪いのは、彼を捨てた父親だろう。そんなどうしようもない父のことを、シリルはそれでも慕うのだ。金に困っている父のために、彼は悪い仲間とつるんで盗みまではたらく。

 彼を単なる悪ガキとして指弾するのは簡単だ。でも、行き場の無い屈託と、やりきれない悲しみに満ちたシリルの表情を見ると、とても他人事とは思えないのだ。誰だって子供の頃は衝動を理性で制御することが出来ず、親たちを悩ませたことがあったに違いない。ましてやシリルは親の愛も知らない。

 彼の行為は良くないことだと本人も分かっている。けれども、反発して無鉄砲に振る舞うことでしかコミュニケーションの手段を得られない。そんな状況に追い込まれた切迫感がヒリヒリするほど強く伝わってくる。

 そしてシリルの行動は大人達の赤裸々な内面をも表面化させる。恋人との関係がいまひとつ煮え切らないサマンサをはじめ、建前だけを気にする者、自分のことだけしか考えない者、いくら表面だけを取り繕っても、本音でぶつかってくるシリルに対しては体面なんか気にしていられない。

 そんな状況になっても自分を見失わない者だけが、本当の“大人”として子供を保護する資格を得られるのだろう。終盤、自ら犯した罪への罰を決然として甘受する主人公もまた、長い“大人への道”を歩み出すのである。

 主演のトマ・ドレは好演だ。この世の不幸をすべて背負ってしまったような目付きが良い。サマンサ役のセシル・ドゥ・フランスも、悩みながらも優しさを秘めたヒロイン像を上手く表現している。ダルデンヌ兄弟の演出は徹底したリアリズムで、観る者に逃げ場を与えない。1時間半に満たない映画だが、その味わいは濃厚だ。第64回カンヌ国際映画祭にて審査員特別賞を獲得。観る価値はある。

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