元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サウス・キャロライナ 愛と追憶の彼方」

2016-08-02 20:55:16 | 映画の感想(さ行)
 (原題:THE PRINCE OF TIDES )91年作品。監督業に進出する俳優はハリウッドでも珍しくはないが、バーブラ・ストライサンドは演技者であると同時に、高名な歌手であり作曲家でもある。本作は「愛のイエントル」(83年)に続く演出第二弾で、兼業監督とは思えないこの実に堂々とした仕事ぶりは、他者とは一線を画するマルチな才能を発揮していると言えよう。

 サウス・キャロライナのサリバンズ島に住む元教師のトムは、母親から詩人である双子の姉サヴァンナが2度目の自殺未遂を図ったとの知らせを受ける。早速彼女が昏睡状態で入院しているニューヨークの総合病院へと向かうが、そこでトムは姉を担当している精神科医スーザンと知り合う。彼女はサヴァンナが精神のバランスを崩すに至った経緯を知るため、トムに姉弟の子供時代のことを聞きだす。



 昔、トムの一家はサウス・キャロライナの片田舎で漁師を営む父親の元で暮らしていたが、家庭内は諍い事ばかりで、幸せな生活とは言えなかった。やがて起こった重大な事件が、彼らの人生に深く影を落としていることが分かってくる。一方でスーザンも家族に関して大きな屈託を抱えていた。最初はいがみ合っていたトムとスーザンだが、次第に互いを憎からず思うようになる。パット・コンロイによる長編大河小説の映画化だ。

 冒頭の、サウス・キャロライナ州の日暮れの風景から主人公トムの少年時代へと画面が変わるあたりで、すでに観客を引き込んでしまう力感が画面全体に横溢している。時制と舞台が頻繁に切り替わるのだが、ストライサンド監督の手際はいささかの乱れも無く、各登場人物の内面に確実にアプローチしていく。

 終盤に明かされる衝撃的な真実も、それまでの展開が的確であるために、いたずらにセンセーションに走ることなく、重量感を持って観る者に迫る。これほどのドラマティックなモチーフを提出していながら、結末はホロ苦さを伴ったハートウォーミングなもので、鑑賞後の余韻は格別だ。

 トム役のニック・ノルティは苦悩する人物像を上手く表現しており、彼の代表作の一つになったのは確実だ。そしてスーザンを演じるストライサンドは絶品。決して目立ち過ぎることはなく、職務と家族に真摯に向き合う医療関係者を見事に表現。ブライス・ダナーやケイト・ネリガン、メリンダ・ディロンといった脇の面子も良質のパフォーマンスを披露している。そしてスティーヴン・ゴールドブラットのカメラによる痺れるほど美しい南部の風景、ジェームズ・ニュートン・ハワードの風格のある音楽も映画を盛り上げる。惜しくもアカデミー賞は逃したが、観て決して損はしない秀作だ。

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