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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ツレがうつになりまして。」

2011-10-25 06:33:46 | 映画の感想(た行)

 昨今は凡打連発の佐々部清監督作品とも思えない(笑)、丁寧に作られた佳編だ。何より作劇が大上段に振りかぶっていないのが良い。これが闘病をメインに患者の病状の推移をリアリズムで定点観測していくような方法を採用していたならば、重くて見ていられなかっただろう。

 とはいえ、表層的な部分を扱っただけのお手軽ムービーでもない。ストーリーの重点を夫婦の関係性と2人の人間的成長に置いており、それがまた無理のない作劇に終始しているおかげで、観賞後の印象は上々だ。

 売れない漫画家の晴子と夫の幹男(通称ツレ)は結婚して5年になる。子供はいないが、夫婦仲はかなり良い。ところがある日、外資系のソフトウェア会社に勤めるツレは仕事上のストレスが溜まり、うつ病を発症してしまう。病気の原因が仕事にあるにも関わらず出勤しようとするツレに向かって晴子は“貴方が会社を辞めなければ、私は離婚する”と言い放ち、ツレの面倒と家計とを一度に背負い込むことになる。

 すると夫の収入をアテにしていたそれまでの自分が、いかにアマチュア気分で漫画を描いていたかを思い知らされる。序盤に晴子の連載が人気不振で打ち切られるくだりが紹介されるが、これは当然のことなのだ。片手間に描かれた漫画など、誰も読みたくはない。

 そんな彼女が意を決して“ダンナがうつ病になったので、自分が稼がないといけない。仕事を下さい!”と出版社の人間に直訴するシーンは、本作のハイライトのひとつだ。自立することにより、単にもたれ合うだけの夫婦関係から、協力して困難に立ち向かう“同士”へとシフトアップしようとする瞬間を、鮮やかに描いている。

 細川貂々による同名のエッセイの映画化だが、原作に使われているユーモラスなイラストをそのまま劇中に挿入させ、おそらく実際には深刻な事態になったことが何度かあったにもかかわらず、映画自体は軽やかなイメージを印象付ける。主演の宮崎あおいと堺雅人は大河ドラマでもお馴染みになったコンビネーションで、安心して観ていられる(特に宮崎の衣装は可愛い ^^;)。大杉漣や余貴美子、吹越満といった脇の面子もソツのない仕事ぶりだ。そして夫婦が飼っているイグアナとカメが抜群のコメディ・リリーフである。

 語り口が終盤にちょっと説明過多になってしまうのが難点だが、まずは観て損のないクォリティを維持している。それにしても、ツレの勤務先の有様には考えさせられた。リストラが横行し、送別会ばかりが続く。そして残った社員には過大な負担を強いる。まさに“ブラック会社”そのものだ。景気が低迷する昨今、ツレのような環境に置かれてメンタル障害を負うケースが今後も増えていくのだろう。困ったことだ。
コメント
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