元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミケランジェロの暗号」

2011-10-27 06:29:46 | 映画の感想(ま行)
 (原題:Mein bester Feind )可もなく不可も無しの出来である。これはひとえに“愛想のない演出”に尽きるだろう。こういうコン・ゲーム仕立てのシャシンは、ハッタリかまして盛り上げるに限ると思う。しかし、いくら戦時中のシビアな境遇を扱っているからといっても、本作の演出は平坦に過ぎるのだ。もっとケレン味を効かせて欲しい。

 1938年のウィーン。裕福なユダヤ人画商の一人息子ヴィクトルと、かつての使用人の息子ルディは親友同士だった。ところがナチの台頭と期を同じくしてルディは親衛隊に加入。ヴィクトルとは敵対する関係になってしまう。ルディはかねてからヴィクトルの家に幻のミケランジェロの絵画があることを聞きつけており、それを党に差し出して出世しようと企んでいたのであった。

 ところが押収した絵画はニセモノ。すでに収容所に入れられていたヴィクトルを呼びつけて絵画の在処を探ろうとするのだが、彼を乗せた飛行機がレジスタンスの攻撃を受けて墜落。それから事態は二転三転し、混迷の度を増してくる。



 事故で上官達が死んでしまい、誰も二人の顔を知らない状態になり、互いに服を交換して相手に成りすますというプロットがクローズアップされてくるが、どうも作劇が弾んでこない。これがハリウッド映画ならば大仰な語り口を見せるところだが、ウォルフガング・ムルンバーガーの演出はヘンに沈んでいてストーリーの喚起力に欠ける。だいたい、本物のミケランジェロの絵画の在処が観ていて誰でも分かってしまうという点が脱力してしまう。

 ならば内面描写は巧みかといえばそうでもなく、あれほどヴィクトルと仲が良かったルディが、自らの欲得のため簡単に相手を裏切ってしまうあたりの背景がほとんど示されない。これでは単に“金持ちのユダヤ人がイヤだった”という取って付けたようなモチーフしか思い浮かばないではないか。

 主演のモーリッツ・ブライブトロイとゲオルク・フリードリッヒの演技は悪くはないが、取り立てて良くもない。個人的にはヴィクトルの母親役でマルト・ケラーが出ていたのが印象深かった程度だ。

 さて、この邦題はとてもいただけない。劇中には暗号なんて出てこないのだ。何やら「ダ・ヴィンチ・コード」などの絵画にまつわるサスペンス編の“二匹目のドジョウ”を狙ったようで脱力する。DLP映写による小さくて平板な画面も願い下げ。評価出来ない映画である。
コメント
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