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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ニッポン国・古屋敷村」

2011-08-23 06:27:05 | 映画の感想(な行)
 81年小川プロダクション作品。監督は三里塚闘争などの記録フィルムで知られる小川紳介。

 舞台は東北の山村。映画はまずこの地方で頻発する作物の冷害についての科学的考察をおこなう。これがすこぶる面白い。実際に山村の地理模型を作り、実験に実験を重ねてついに原因を解明するまでのプロセスがミステリー映画顔負けの巧みな語り口でつづられる。説明に使用する小道具もすべて手作りで好感が持てる。上質の科学ドキュメンタリーを思わせる映画の前半部分。しかし、この映画のスゴイところはそれがこの長大な作品(上映時間は3時間を軽く超える)の序章でしかないことだ。

 おそらくは作者も当初は東北地方の冷害の記録映画として製作しようとしたに違いない。ところが、冷害研究のプロジェクトを組んだ現地のスタッフの家族を紹介したのがきっかけで、映画は“古屋敷”と呼ばれるそのの歴史・風土全体をも巻き込んでいく。

  

 それは住民へのインタビューから始まるが、単なる昔話にとどまらず、たとえば道が切り開かれ、テレビが入り便利になったことが生活を苦しくしたということ、あるいは昭和20年にニューギニアより帰還した元兵士が今でも兵隊ラッパを吹いている姿を画面に映し出すうちに、そこには日本の忘れられた戦後史さえも浮かび上がらせるようになる。

 とにかく、何の変哲もない山村の点描が日本という国の構造・根幹にまで触れる状況にまで発展する構成の大胆さにうなってしまう。

 忘れてはならないのは、この作品を撮るにあたって、スタッフが完全に現地住民と一体化している点だ(当然そうでなければこれだけ突っ込んだ描写が出来るはずがない)。資料によると、村の人々の信頼を得て協力をとりつけるまでに3年かかっているという。つまりこの作品は80年8月から81年7月までの記録であるのだが、それ以前78年から80年までも準備を続け、だからこそ冒頭の科学ドキュメンタリー部分の中でさり気なく平年の稲の開花時期を入れたりして説得力を持たせるのに成功している。地道な努力こそが記録映画製作の大きな要因であることを改めて知ることができる。

 一見ぶっきらぼうとも思われる据えっぱなしのカメラが住民ひとりひとりの内面まで映し出していて効果的。長い上映時間があっという間に終わってしまうドキュメンタリー映画の秀作である。
コメント
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