元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アリス・クリードの失踪」

2011-08-11 06:27:01 | 映画の感想(あ行)

 (原題:THE DISAPPEARANCE OF ALICE CREED)前半部分はかなり面白い。刑務所帰りの中年男と若い男の二人組が富豪の一人娘であるアリスを誘拐するのだが、その手際が実に鮮やかだ。

 ミニバンを盗んでナンバーを交換。ホームセンターで必要な道具類をテキパキと買い集め、人質を監禁する部屋を防音・遮光仕様に作り変える。アリスを拉致した後は、部屋のベッドの上で手足を拘束。素早く写真を撮って彼女の親元にその写真と共に身代金要求メールを送りつける。ここまでが流れるように描写されており、思わず引き込まれる。

 もちろん、このままスムーズに事が運ぶわけがなく、予期せぬトラブルによって二人組の計画がどんどん狂っていく。まず若い男はアリスと付き合っていたことがあり、そのことを中年男は知らない。犯人二人組の間柄も常軌を逸している。一発の銃弾や拾い忘れた薬莢、携帯電話という小道具が効果を発揮し、中盤に掛けての心理サスペンスはかなり盛り上がる。

 ところが、映画が後半に入ると御都合主義的なプロットが山のように挿入され、次第にヴォルテージは落ちてくる。ここで一つずつ説明するのはネタバレになるので差し控えたいが、最大の難点だけを紹介すると、身代金の引き渡しのプロセスがそっくり抜けている。

 黒澤明監督の「天国と地獄」や大河原孝夫監督の「誘拐」などを引き合いに出すまでもなく、この手のサスペンス編で一番趣向を凝らす必要があるのは、どうやって犯人は身代金を手に入れるのかという、その過程だ。ここを省略して“いつの間にやら大金が犯人の元に届いている”という場面にワープしてしまっては、何のために誘拐劇を作ったのか分からない。

 この映画の登場人物は上記の3人だけである。警察当局やアリスの親族が出てこないのはもちろん、通行人でさえほとんど画面に現れない。それだけストイックで野心的な作劇だと言えるのだが、残念ながらこのネタはわずか3人では成り立たないのだ。二転三転した挙げ句の寂寥感漂うラストは印象的ではあるが、ミステリー映画としての興趣はそれほどでもないというのが正直なところである。

 監督と脚本は新鋭ジェイ・ブレイクソンだが、何となく“策に溺れた”という印象がある。二人組に扮するマーティン・コムストンとエディ・マーサンは健闘しているが、アリス役のジェマ・アータートンがルックスも品格もイマイチなので、熱演している割には“引いて”しまった。とはいえ、英国製サスペンス劇としては後半の腰砕けぶりを“愛嬌”と捉えればそれなりの満足感は得られるシャシンだと言えよう。
コメント
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