元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「レベッカ」

2011-08-22 06:26:45 | 映画の感想(ら行)
 (原題:Rebecca )1940年製作で、日本公開は戦後の1951年。アルフレッド・ヒッチコック監督が初めてハリウッドで撮り、アカデミー作品賞を獲得した映画だが、私は今回のリバイバル公開で初めて観た。世評通り、今観ても古さを感じない格調のあるサスペンス編である。原作は「鳥」などで知られるダフネ・デュ・モーリアの同名小説だ。

 金持ちの有閑マダムの秘書をしているヒロインは、雇い主の旅行のお伴として訪れた南仏で、妻に死なれて失意の中にあった英国貴族のマキシムと出会い惹かれ合うようになる。旅行が終わる頃になって、二人はいきなり結婚。そのままコーンウォールにあるマンダレーの大邸宅に新妻として迎えられることになるが、そこは完璧な美貌と知性を誇っていた前妻レベッカの影響下にあった。何かというと前の奥方と比較され、彼女は次第に追い詰められていく。



 レベッカはマキシムの回想場面はもちろん写真ですら映し出されることは無く、最後まで謎の女として扱われているのが効果的だ。そのカリスマ性を象徴しているのが、屋敷を取り仕切っている家政婦のダンヴァース夫人である。無表情で、慇懃無礼を絵に描いたようなキャラクター。いつの間にか主人公の背後に立っているという神出鬼没ぶりは、レベッカの亡霊が乗り移ったような凄味を見せる。

 また、ある意味彼女よりも前妻の存在感を投影しているのが、屋敷の調度の数々である。レベッカが使っていた部屋のインテリアや家具・小物の配置に至るまで、それらは洗練の極を示し、その中で邸宅を支配していた前妻の振るまいが手に取るように分かる。

 ヒロインがマキシムに開催を提案した仮装舞踏会の夜、近くの入り江に打ち上げられたレベッカのヨットが発見されるに及び、単なる事故として片付けられていた前妻の死の真相が物語の中に急浮上してくる。それから後の展開はヒッチコック御大の独擅場だ。水も漏らさぬスリラー演出でグイグイと観客を引っ張っていく。二転三転するプロットを経て、レベッカの頭文字“R”が消えていくラストは深い余韻を残す。

 主演のジョーン・フォンテーンは正統派美人というよりも笑顔の可愛いアイドルスターといった感じで、何も知らない娘が怨念が渦巻く屋敷の中で藻掻き苦しむといった“嗜虐的趣味”の効果を大きくすることに貢献していたと思う(笑)。マキシム役のローレンス・オリヴィエはさすがの存在感。ノーブルな貴族を演じてサマになるのは彼を置いて他にはいないだろう。

 そしてダンヴァース夫人に扮したジュディス・アンダーソンは目の覚めるような(?)怪演。後年のホラー映画によく登場する“謎の老婦人”(なんだそりゃ ^^;)の原型みたいなキャラクター設定だ。これでオスカーを獲得したジョージ・バーンズのカメラワーク、フランツ・ワックスマンの音楽、すべてにおいて見応えのある秀作だ。
コメント
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