元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「悲しみのミルク」

2011-08-02 06:30:36 | 映画の感想(か行)

 (原題:La teta asustada)前に観たタイ映画「ブンミおじさんの森」と似たような作品だ。つまり“メジャーな映画祭で大賞を獲得したのに、さっぱり面白くない”という意味で両者は同格である。さらに、非・欧米圏の映画でありエキゾチシズムを前面に押し出した作りである点も一緒。夜郎自大な“作家性”とやらが横溢しているあたりも共通している。

 ハッキリ言って劇場で公開する意義を何ら見出せないのだが、こんなのが有名なアワード(本作は第59回ベルリン国際映画祭の金熊賞受賞作)を獲得してしまったおかげで、映画ファンとしては取り敢えずはチェックしなければならない。実に困ったシャシンである。

 政情不安なペルーで、横暴なゲリラ兵から逃れるために故郷の村を出て、親戚が住むリマ郊外の貧民窟に身を寄せた母娘がいた。ところが母親は間もなく死亡。娘は母を元の村に埋葬したいが金がなく、白人女性音楽家の屋敷でメイドをすることになるが、さらなる苦難が待ち受けていた・・・・という話だ。

 マガリ・ソリエル扮するヒロインの苦境を丹念に追えばリアリスティックな力作としてそれなりの成果を挙げることが出来たと想像するのだが、何を思ったのか浮世離れしたオカルティックなテイストが大々的にインストールされていて、それがまた宙に浮いたような白々しさを強調している。

 娘はゲリラ兵に乱暴された過去を持つ母親から“恐乳病”なる疾患を受け継いでいて、そのため局部にジャガイモが埋め込まれ、それは時おり芽を出すので彼女はハサミで剪定する・・・・などという脱力的なネタが何の工夫もなく差し出され、観る側は困惑するばかりだ。

 かと思えばこの地に根強く残る差別問題や、60年代の軍事クーデターに端を発する社会的混乱に関しての言及は、拍子抜けするほど通り一遍に終わっている。そして途中で放棄されたようなエピソードも目立つ。それを取り繕うように、意味のないカメラの長回しが延々と展開されるのには閉口してしまった。監督のクラウディア・リョサはノーベル賞作家ペドロ・バルガス・リョサの姪らしいが、表現者としての才能は伯父から受け継いではいないようだ。

 唯一良かったのがロケーションである。草木もない岩肌にへばり付くように建っている貧民達のバラック群の描写は、この国のシビアな状況を如実に現していて圧巻だ。こんな荒涼とした場所では「ブンミおじさんの森」で描かれたような幽霊とか精霊たちが歩き回る余地はないのだろう。本当に寒々とした気分になってくる。
コメント
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