元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「雨に唄えば」

2010-11-29 06:21:06 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Singin' in the Rain )1952年作品。テレビ画面では何度も見ているが、スクリーン上で接するのは今回のリバイバル公開が初めてである。往年のMGMミュージカルの傑作のひとつ。サイレントからトーキーに移行する1920年代後半のハリウッドを舞台に、スターと新進女優とのおかしな恋愛模様が、主演も兼ねるジーン・ケリーとスタンリー・ドーネンの共同監督により無類に楽しい喜劇として仕立て上げられる。

 映画の出来としては何も言うことがない。どんなに辛く悲しいことがあっても、上映している間は夢を見ているような幸せな気分になれる。月並みな言葉だが、映画のマジックとはこういうものを言うのだろう。



 さて、今回改めて観るにあたり印象に残った点をいくつかあげたい。まず、これは優れたアクション映画でもあるということ。前半の、ジーン・ケリーがマスコミやファンから逃れるために車の屋根を伝って運転するヒロインの隣に収まるシーンは、まるでジャッキー・チェンの映画ではないか。もちろん、ジャッキーの方が本作をはじめとするハリウッドの黄金時代の作品を参考にしたのであるが、今ならばCGやワイヤーを使う場面を生身のスタントマンが演じているあたり、凄味すら感じる。

 さらに、主演の3人が机や椅子の上で激しいダンスをするくだりは、一歩間違えれば大事故に繋がる危険なシーンだが、彼らは軽々とやってのける。個々人の能力が恐ろしく高く、またそれを引き出す演出もある。まったくもってこの時期のハリウッドの底力には恐れ入る。

 次にミュージカルシーンだが、一般に最も良く知られているケリーが雨の中で歌い踊るシークエンスよりも、後半登場する実験的な展開に注目したい。これはケリーがその前に監督した「巴里のアメリカ人」のクライマックス・シーンの発展形とも言えるものだが、ケリーらしいキレの良さを存分に堪能出来る。



 まあ、人によってはこの部分は“浮いている”との感想を持つのかもしれないが、ライト感覚で埋め尽くされた作劇の中にあって、雰囲気を引き締める役目をしていると思う。少なくとも、見応えがあることは万人が認めるところだ。

 綺羅星のごとく出て来るお馴染みのナンバーの数々。もちろんタイトル曲の「雨に歌えば」もいいのだが、私が好きなのは「グッド・モーニング」だ。朝が来るときの清新な気分を歌ったこの曲は、何度聴いても泣けてくるほど素晴らしい。ケリーをはじめ超実力派エンターテイナーのドナルド・オコナーと、可憐なデビー・レイノルズとのコンビネーションは圧倒的だ。公開年度のアカデミー賞の候補にこそならなかったが、娯楽映画の最高峰の一つとして、これからも魅力を振りまいてくれるのだろう。
コメント
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