元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「義兄弟」

2010-11-18 06:55:27 | 映画の感想(か行)

 (英題:SECRET REUNION)かなり面白く観た。映画には“バディムービー”というジャンルがある。立場のまったく違う者達が何かの事情で一緒に行動しなきゃならない状況に追い込まれ、反目し合いながらも連帯感を高めていくというパターンの作品で、その中には傑作もけっこうある。本作はその“バディムービー”の基本的な図式をもう一捻りしているのがポイントが高い。それは、双方が相手の正体を知っているが、相手が自分の正体に気付いているとは思っていないという点である。

 北朝鮮から“影”と呼ばれる凄腕の殺し屋が韓国に潜入。韓国情報院のイ・ハンギュは“影”を追うが、紙一重の差で凶行を防ぐことが出来ない。しかも自らのスタンド・プレイを咎められて情報院を解雇されてしまう。

 数年後、私立探偵として外国人相手のヤバい仕事を請け負うようになったハンギュは、捜査現場で“影”のアシスタントをしていた北朝鮮工作員のソン・ジウォンを見付ける。いまだ逃走中の“影”のシッポを掴むため早速ジウォンに接近して仕事仲間に誘う彼だが、ジウォンもハンギュの顔を忘れてはいない。かくして“相手はオレの正体に気付いていないはずだ”と思い込んでいる二人の、山あり谷ありの珍道中が始まる。

 ハンギュに扮するソン・ガンホとジウォン役のカン・ドンウォンの好演が光る。猪突猛進型だが憎めないキャラクターを演じさせれば、ガンホの右に出る者はいないだろう。さらにオフビートさと時折ギラリと輝く情念の深さをも感じさせ、人物像に奥行きを与えている。今までトレンディ俳優(死語 ^^;)としか思っていなかったドンウォンも、端整な顔立ちの中に家族と分断された悲しみと行き場のない怒りを秘めたような、抑制の効いた演技でアピール度が高い。

 チャン・フンの演出はテンポが良く、最後までドラマ運びに淀みがない。ギャグの振り方も万全であり、主人公二人のトンチンカンなやり取りには笑わせてもらった。終盤のバトルシーンから鮮やかな幕切れまで、存分に楽しめる。

 それにしても、かつて南北工作員同士の仁義なき戦いを描いた「シュリ」の頃とは、朝鮮半島情勢が違っていることを思い知らされる。もはやあの映画のように単純な二者択一で割り切れるような次元の話ではないのだ。さらに主人公2人が探偵として引き受ける仕事が、ベトナムから韓国に連れてこられて逃げ出した外国人花嫁の捜査というのも象徴的で、グローバルな問題を内包した東アジアの状況が垣間見える。その意味でも観る価値はあるだろう。
コメント
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