元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「乱暴と待機」

2010-11-27 06:43:57 | 映画の感想(ら行)

 ヘンな映画なのだが、妙に面白い。これは作者が、人間関係の機微というものを分かった上で変化球を投げているからだと思う。つまりは見かけは奇態だが、中身は本格派で、これが逆だったら目も当てられない結果に終わっていただろう(笑)。

 東京都の郊外にある木造平屋立ての公営住宅に引っ越してきた番上(山田孝之)と身重の妻・あずさ(小池栄子)。失業中の番上は転居をきっかけに心機一転で就職活動に励もうとするが、近所にあずさが高校時代にさんざん煮え湯を飲まされた問題人物の奈々瀬(美波)が住んでいるのが分かり、思わず逆上。夫婦の生活に早くも暗雲が垂れ込めてくる。

 しかも奈々瀬は英則(浅野忠信)という怪しい男と兄妹のフリをしながら同居。英則は“マラソン”と称して屋根裏から奈々瀬をのぞくことを日課にしつつ、約20年前に起きた事故の“復讐”を奈々瀬に対して果たすために、延々とそのプランを練っているという、まるで常軌を逸した連中ばかりが登場する。

 原作は本谷有希子による同名戯曲で、描かれている世界はとても狭い。安普請の木造住宅の有り様や奇行に走る登場人物の描写など、ヘタすれば息苦しいアングラ芝居になるところだ。しかし、誰一人としてマトモな人間が出てこない作劇の中で普遍的なテイストを獲得することに成功した監督・冨永昌敬の腕前は侮れない。

 その“普遍的な部分”とは何かというと、過去(あるいはひとつの事柄)に拘泥する悲しくも可笑しい人間の姿である。くだんの若夫婦は引っ越して新規巻き返しを狙ったものの、触れたくない過去を喚起する隣人に接したばかりに、堂々巡りに陥ってしまう。奈々瀬と英則のカップルも、とうの昔に過ぎ去ったトラブルから一歩も外に踏み出せない。英則が年代物のデッキで聴いている昔のカセットテープの音源が、それを象徴しているようだ。

 ただし、それがイケナイと決めつけるのも無粋である。過去を縁に生きていても、それなりに楽しければ良いではないか・・・・という、開き直った清々しさは捨てがたい。たまにはこういう“後ろ向き人生”に浸ってみるのもいいものだ。

 キャストは皆好調だが、中でも浅野のヘンタイ演技は凄い(爆)。こういう奇天烈なキャラクターを“自然に”演じてしまうのだから、彼の実力には改めて感服する。また、ヘンテコ度では美波も負けていない。始終ジャージー姿でおかしなことを口走り、特に冒頭近くの失禁シーンは本作のハイライトであろう。前の主演作「逃亡くそたわけ 21才の夏」と同じくメンタル面で問題のある役をこなしているが、次回あたりでは“普通の女の子”に扮した姿を見たいものだ。
コメント
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