元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カールじいさんの空飛ぶ家」

2009-12-18 06:15:28 | 映画の感想(か行)

 (原題:UP)冒頭の十数分間で“勝負あった”という感じだ。主人公のカールじいさん(声:エドワード・アズナー)が幼い頃に後に妻となる女の子と知り合い、長じて一緒になり、子供は出来なかったけどそれなりに幸福な生活を送り、やがて病気で彼女を亡くすまでが簡潔に描かれる。

 主人公のプロフィールを紹介すると同時に、彼が歩んできた人生は地に足が付いた堅実なものであったことを示している。これは決して作者の頭の中で考えただけの奇を衒ったハナシではない。観る者誰もが共感出来る、普遍性の高いモチーフだ。しかも語り口は流麗の極みであり、一片の無駄もない。ここの部分だけで涙してしまう観客もいるのではないだろうか。

 ここでドラマの土台をしっかりと押さえておけば、あとの展開が荒唐無稽でも許してしまえる。正直言って、カールじいさんが住処に無数の風船を付けて、かつて妻と一緒に行くと約束した南米の奥地目指して旅立ってからのくだりは少々子供っぽい。ジャングルの中で出会った人物が、味方だと思っていたら突然悪役の本性をあらわすというのは唐突に過ぎるし、喋る犬達の造型も(見た目は面白いけど ^^;)ドラマ上必然性があるのかと思ってしまう。

 しかも、空飛ぶ家での“旅行”は呆気ないほどすぐ終わる。途中で嵐に巻き込まれたり障害物に邪魔されたりといった紆余曲折はあるものの、アッという間に目的地の近くに着いてしまうのだ。それから地上でのやり取りが延々と続くのだが、さほど作劇が工夫されているとは思えない。

 しかし、序盤の十数分間がモノを言い、かような作り話をいくら展開させようと、映画そのものが瓦解する気配は微塵もない。それどころか、終盤の扱いが冒頭の部分と連動して本作のテーマを浮かび上がらせる働きをする。それは、失うものが多くなる人生の幕切れに近付いても、その気になれば新しく得るものだっていくらでも出てくるということだ。

 主人公は妻を失い、住処を失い、もちろんそれ以前に高齢のため仕事まで失っている。空飛ぶ家と共に旅に出たところで、風船の浮力は長くは保たない。だが、冒険の果てに彼は“出会いは別れの始まりかもしれないが、別れもまた出会いの始まりである”という真実に到達するのだ。エンドタイトルのバックに映し出される画像は、それを表現するかのようなポジティヴな輝きに満ちている。

 ピクサーによる映像処理は相変わらず凄い。特にクライマックスの“空中戦”の場面には、思わず身を乗り出してしまう。ピート・ドクターの演出は快調で、ギャグの扱い方も秀逸。中でも年寄り同士の格闘場面には大笑いさせられた。全ての年齢層にアピールする良作だと思う。ディズニー=ピクサーの作品は、今後も追いかけることになると思う。
コメント
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