元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あげまん」

2009-12-21 06:15:47 | 映画の感想(あ行)
 90年作品。監督は伊丹十三。「あげまん」ってのは、上昇運をもたらす古語で、本作はその“あげまん”の芸者をヒロインに、彼女にかかわって幸運に恵まれ成功の道を歩む男、逆に見放されて没落していく男などを描いている。

 公開当時は“あげまん”という言葉を先に流行語にして、それから映画をヒットさせようとするミエミエの戦術が効を奏して、かなりの観客の入りになった。でも、はっきり言って、これほどつまらない映画もない。伊丹監督の作品では「お葬式」や「マルサの女」の2本のように、題材を彼なりにマジメにとらえた映画が好きである。しかし「タンポポ」や「マルサの女2」の人をおちょくった下品な映画は嫌いだ。「あげまん」はその「タンポポ」路線の決定版ともいうべき低調な映画である。

 この女主人公ナヨコ(当時既に少々鼻についてきていた宮本信子)は何を考えているのかさっぱりわからない。赤ん坊のときに親に捨てられ、芸者として仕込まれ、否応なく生臭坊主に水揚げされ、囲われて2号生活のかたわら短大に通い、やがてダンナに死なれてOL生活、といった境遇なのはいいとして、彼女はどういう考えを持った女性か、あるいはどういう性格か、はたまた可愛いのかただのバカなのか、そういうところが全く描かれないまま、周りの男どもが「あげまんだっ。あげまんだっ。」と騒いでいるだけという、ほとんど内容のない映画だ。

 それではただのコメディなのだろうか。それにしては、たびたび挿入されるギャグの面白くなさはどういうことか。ヒロインにかかわる各キャラクターにしても、アブラぎった政治家やトシとった政府の黒幕、ホモの銀行頭取、“さげまん”の若い女、などなど、作っている本人は面白いつもりだろうが、どいつもこいつもただウルサイばっかりでちっとも中身がない。旧かなづかいの字幕がシーンが変わるごとにでてくるが、これがいかにもインテリ助平ふうでいやらしい。

 だいたいヒロインのナヨコという名前は7月4日に拾われたから、というのは、公開時期が近かったオリヴァー・ストーン監督の「7月4日に生まれて」のあきらかなパクリであり、その着想の底の浅さにはげっそりである。そういえば、強引なつくりで観客をひっぱっていくところは伊丹監督はオリバー・ストーンと似ていなくもない。しかし、あちらにはベトナムでの悲惨な体験からくるパワーがあるが、この映画の伊丹には目先のウケを狙った挑発だけしかなかった(-_-;)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする