元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「竜二 Forever」

2009-12-01 06:22:38 | 映画の感想(ら行)
 2002年作品。83年に公開されたヤクザ映画の秀作「竜二」の主演男優で同作品の脚本も担当した金子正次は、将来を嘱望されながらも33歳の若さでガンに倒れた。彼の伝記である生江有二の「竜二 映画に賭けた33歳の生涯」の映画化で、監督は「シャブ極道」などの細野辰興。

 映画は劇団を主宰していた金子が映画製作に意欲を見せ、苦労の末に作品を完成させた後、急逝するまでを事実に則ってそつなく見せる。細野監督の演出は的確かつ丁寧で、大向こうを唸らせる仕掛けはないものの、納得できる仕事ぶりだ。金子に扮する高橋克典は少々「サラリーマン金太郎」っぽいが(笑)、石田ひかり 香川照之 木下ほうか、藤田傅、奥貫薫といった脇のキャストに支えられて、演技そのものにそれほど文句はない。ドラマ全体の質としても及第点には達しているだろう。

 しかし、この作品が観客によっては“単なる出来の良い再現ドラマ”という適当な評価を超えるものになることは想像に難くない。ハッキリ言って「竜二」を観ている客と観ていない客とでは感銘度が天と地ほども違うのだ。「竜二」を観た者は誰しも金子の俳優としての資質に圧倒される。巧みな脚本にも感心する。そして彼がこの一本だけを残して去って行ったことも知っている。彼がもし生きていれば現在の日本映画が違った展開を見せていただろうと想像もできる。それだけに、彼の晩年を切々と描いたこの作品には思わず入れ込んでしまうのだ(当然、私もそうだった)。

 劇中での松田優作(をモデルにした俳優)との確執、困難を極める映画製作、無情な監督交代劇etc.そのすべてが「竜二」にまつわる実際のエピソードとダブってきて、あの映画を知る者にとってはたまらない気持ちになる。

 なお、私は本作を2002年の湯布院映画祭で観た。この映画は日本映画で始めて劇中に湯布院映画祭が登場する(ロケは別の場所だが ^^;)。「竜二」を最初に取り上げたのもこの映画祭だった。そこで観客の万雷の拍手を受けた金子がこの世に別れを告げたのはその数ヶ月後である。映画祭のスタッフや常連にとってこれほど感無量のことはあるまい。ラスト近くにあちこちからすすり泣きの声が聞こえてきたのも当然というべきか。
コメント (2)
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