元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」

2009-12-15 06:19:31 | 映画の感想(は行)

 けっこう楽しめるシャシンだ。掲示板の書き込みを元にしたネタという意味では「電車男」に通じるものがあるが、同じくオンラインのコンテンツであるケータイ小説とは全く違う訴求力を持っている。

 ケータイ小説の映画化では、あの愚作「恋空」ぐらいしか観ていないが、書籍化された他のケータイ小説をパラパラとめくってみても、どれも稚拙で大人の鑑賞には耐えられないものであると感じる。対して掲示板の書き込みを下敷きにしたものが割と面白いのは、テーマの興味深さはもとより不特定多数との双方向性によってネタが練り上げられていくからだと思う。

 最初から内容が希薄なスレッドならば文字通りの“放置プレイ”に終わり、話が発展しない。映画の題材になるほどのトピックであるためには、最初のトリガーになる部分はもちろんのこと、他の参加者との意見交換により高い普遍性を獲得したものに限られる。当然の事ながらそういうスレッドは少ないとは思うが、映像化するのならば子供向けの一方通行のメディアに過ぎないケータイ小説よりも数段“的中率”の高い素材であろう。

 さて、本作は長年ニート生活を送っていた主人公が、母親の死をきっかけにして一念発起して小さなIT企業に就職したところ、そこは社員に無茶な仕事を強要する“ブラック会社”だったという設定だ。サービス残業や徹夜は当たり前の理不尽な扱いにさんざん苦労させられる彼だが、やがてそれらを克服して仲間と共に成長してゆくという一種のサクセス・ストーリーである。

 主人公はずっと人生に背を向けていたにもかかわらず、実は“変わりたい”という願望は人一倍高い。だからこそ独学でプログラマーの資格を取り、自らに鞭打って就職活動に励み、やっとのことで職にありついたのである。気を付けなければならないのは、この映画の評価を“どんなに辛い境遇でも、頑張れば何とかなる”という“自己責任&自主努力”の図式に持っていってはならないということだ。

 彼は元々イイ奴であり、両親からも信用されていた。そして何より職場に尊敬できる人格者の先輩がいて、何かとアドバイスを受けることも出来た。だからこそ苦難を乗り越えられたのだ。逆に言えば、周囲にマトモな人間がいなかったら、彼の人生は暗いままだったろう。その人と人との結びつきの重要性を平易な語り口で綴ったところに、この映画の勝因がある。

 ハッキリ言って、こんな“ブラック会社”は反社会的な存在以外の何物でもない。そういう職場で難儀している若い衆を“自己責任”の一言で片付けられてはたまらないのだ。職場で安心して働けることが誰にとっても当たり前の環境になるように、政府や関係当局に要求していかねばならない。

 佐藤祐市の演出はケレン味が少々は鼻につく箇所もあるが、おおむね良好。主役の小池徹平をはじめ田辺誠一、マイコ、品川祐などキャストも好調だ。働くことの価値を考えさせられる意味で、観て損のない映画である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする