元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」

2009-12-02 06:20:07 | 映画の感想(ま行)

 (原題:THIS IS IT)突貫作業で出来上がったわりには、見応えのあるシャシンに仕上がっている。2009年6月に突然この世を去った稀代のスーパースター、マイケル・ジャクソンのロンドン公演のリハーサルを追ったドキュメンタリー・フィルム。まず驚かされるのが、死が間近に迫っていたにもかかわらず、元気一杯で仕事に励んでいる彼の姿だ。

 ああいう形で最期を迎えた者にありがちな、どこか捨て鉢な態度やプレッシャーに押し潰されそうな気配など微塵もない。ここにあるのは、何とかコンサートを成功させようと前向きに努力している一人のミュージシャンである。

 本当は、切迫した事情があったのかもしれない。だが、現時点でそれを追求する意味はあまりない。今はただ、早すぎる終幕を迎えた大きな才能を惜しむだけだ。真相に迫るのは、時が経って彼をめぐる状況が落ち着いてからで良い。そうなれば新しい事実も出てきて、より深く素材に切り込めるだろう。

 さて、通常有名スターのリハーサル風景というと、ピリピリした緊張の連続を思い浮かべる。怒号が飛び交い、関係者が必死の形相で走り回る姿も想像できる。しかし、本作に限っては見事なほど抑制されている。現場の雰囲気はあくまで明るく穏やかだ。マイケルも気さくに振る舞い、時には周囲を気遣うという、一種スターらしくない(笑)言動も見られる。ただしこれは、彼を支える共演者やスタッフが一流であるからこそなのだ。

 マイケルの指示によって、少しの淀みもなくシステムが順次修正されてゆく。それを可能にする有能な人材ばかりが集まっている。考えてみれば、必要以上に神経を使う現場とは、一流でない者が混じり込んだケースではないだろうか。方向性をしっかりと認識した逸材ばかりであるからこそ、阿吽の呼吸でスムーズに進行するのだ。私は是非ともこのスタッフや共演者を選出するオーディションのドキュメンタリーも観てみたい。真に有能な人材とは何なのか、それを浮き彫りにする有意義な作品になるはずである。

 リハーサルなのでマイケルも本気を出していない。ステージでのパフォーマンスは、あくまでプログラムをチェックするためのものだ。しかし、それでもマイケルは凄いのである。時折見せる鬼神のような身のこなし、伸びのある歌声、本番の公演を観たくなってしまう。本当に惜しい才能を失ってしまったものだ。

 なお、この映画はデジタル方式にて上映された。画像もそれに応えるように質が良く、作品としてのクォリティも損ねていない。監督のケニー・オルテガらの真摯な仕事ぶりにも感謝するように、上映後は拍手が巻き起こった。
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