元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パブリック・エネミーズ」

2009-12-24 06:26:59 | 映画の感想(は行)

 (原題:Public Enemies)退屈な映画だ。もっとも、それは予想していた。何しろ監督がマイケル・マンである。彼は何度となく犯罪ドラマを手掛けているが、いずれも極端な温度感の低さが特徴だ。もちろん、クライム・サスペンスはすべてホットに生々しく撮らねばならないというキマリはない。クールに一歩も二歩も引いた地点から題材を捉えるという手法も有効な場合が多いのだ。だがマン監督作品はどれもその立ち位置が曖昧である。

 冷めているようでいて、銃撃シーンの撮り方に代表されるように、局所的な部分では過度な執着ぶりを見せる。また、ドラマのトーン自体が寒色系であるにもかかわらず、主人公像は不必要に暑苦しいダンディズムを付与されている。要するに、映画作りに対するスタンスがチグハグなのだ。同様に映画の出来自体もチグハグに終わっている場合が多い。

 ならばどうして一線での仕事が回ってくるのかというと、たぶんあの清涼でスタイリッシュな映像タッチがハリウッドにおいては希少価値があるのだろう。ジャズをはじめとする音楽への造詣も高く、選曲に非凡なものを見せるというのも大きな要因かもしれない。

 さて、本作は1930年代の大恐慌時代に名を馳せた銀行強盗、ジョン・デリンジャーの実録映画である。デリンジャーを描いた映画は過去に何本かあり、有名なのがジョン・ミリアス監督版だ。あの作品が公開されたのは70年代前半で、当時は今と同様に不景気だったということを考えると、デリンジャーは庶民の財産をかすめ取る銀行屋に一泡吹かせたいとの風潮が高まると映像で取り上げられる“ヒーロー”なのかもしれない。

 とはいえ、この映画ではデリンジャーのヒロイックな面はほとんど描かれない。それも、ちゃんと狙いがあって描かないのではない。描けないのだ。マン監督に登場人物の心理描写なんかを求めること自体が間違っているのである。作劇面でも、ただ史実を漫然と並べるだけで、そこに作者の骨太なポリシーなんかは全く感じられない。

 主人公はどうしてこのような犯罪に手を染めたのか、なぜ交際相手の女は彼に付いて行こうと決めたのか、FBI長官の職務上のアイデンティティははどこにあるのか、デリンジャーを追いつめるパーヴィス捜査官が事件解決後に取った行動の真意は何なのかetc.大事なことは何一つ語られていない。反面、時代考証や美術・衣装はかなりよく練られており、逆に言えばその範囲内で作者だけが自己満足しているようなシャシンである。

 ジョニー・デップ、クリスチャン・ベイル、マリオン・コティヤール、スティーヴン・ドーフといった多彩なキャストも効果無く、上映時間は意味もなく長い。時間を割いてまで観るような映画ではないのは確かだ。
コメント
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