元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「夕凪の街 桜の国」

2007-12-19 06:59:32 | 映画の感想(や行)

 近年行き詰まりの感がある佐々部清監督作品にしては出来は悪くないが、不満も残る。昭和33年の広島を舞台に、事務員として働くヒロインが原爆症により非業の最期を遂げる「夕凪の街」と、彼女の姪が父親(「夕凪の街」の主人公の弟)の不審な行動を追いかける、設定を現代に置いた「桜の国」との“二本立て”構造により、反戦のメッセージをより立体的にしようと腐心した映画である。

 前半の「夕凪の街」は予想通りの展開ながら、主演の麻生久美子の存在感により見応えのあるパートに仕上がった。とにかく彼女の健気で儚げな佇まいが良い。さすが“日本三大薄幸女優”の一人だ(ちなみに、あとの2人は中谷美紀と宮崎あおいである ^^;)。当時を再現した舞台セットなども、低予算ながら「三丁目の夕日」シリーズよりもずっと実体感がある。

 しかし、原作漫画の作者であるこうの史代(私は原作は未読)の基本スタンスだと思われる“原爆は、落ちたのではなく落とされたのだ”という、歴史に正面から向き合うような姿勢は、このパートの終盤にヒロインの口から取って付けたように告げられるのみ。全般的に“難病もの”のルーティンを追っているような感じがして愉快になれない。元ネタの主題を活かすような、別の切り口を模索すべきではなかったか。

 後半の「桜の国」は主役の田中麗奈の体育会系的キャラクターがぴったりハマった“一見ガサツだが、実は純情”という役柄が面白い。友人(中越典子)と共に父親のあとを付けて広島まで旅をするくだりは珍道中よろしく山あり谷ありの展開で飽きさせない。

 ただし、父親の行動が伯母の悲劇をはじめとする原爆の惨禍を再確認する旅であることをヒロインが知った後の、たぶん原作のハイライトであろう“主人公が時空を超えて伯母の辛苦を体験し、なおかつ今の自分を顧みる”部分になってくると、演出者の力量不足かあるいは不慣れなジャンルであるためかどうか知らないが、平板でまったく盛り上がらないのは痛い。ここはもう少し頑張って欲しかった。

 藤村志保や吉沢悠など他のキャストも好調。しかし「桜の国」の父親役が堺正章で、これが「夕凪の街」での伊崎充則の後年の姿というのは納得できない。ひょっとしたら「桜の国」の時制に達する前にキャラクターが変わってしまうほどの出来事があったのかもしれないが(笑)、互いにまるで持ち味の違う俳優であり、繋がるものがないのだ。いまひとつキャスティングの詰めが必要だったと思われる。
コメント (2)
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